世帯収入が高い場合における学費加算の注意点

婚姻費用に関するQ&A

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世帯収入が高い場合における学費加算の注意点

Question

婚姻費用や養育費に学費等を加算して請求する場合、婚姻費用や養育費の中ですでに考慮済みとされる学校教育費は収入に応じて変わりますか?

Answer

婚姻費用や養育費の中で学校教育費がすでに考慮されているところ、実際の学費等から考慮済みの学校教育費を控除した残額については婚姻費用や養育費に加算して請求できる可能性があります。

考慮済みの学校教育費としては、通常は0歳から14歳までは年額13万1379円、15歳以上は年額25万9342円とされていますが、上記金額はあくまで世帯平均年収をベースとした場合の金額であるため、父母の年収の合算額が世帯平均年収を上回る場合には考慮済みの学校教育費は上記金額よりも多くなる可能性があります。

具体的な計算方法としては、①「平均的な学校教育費×世帯年収÷世帯平均年収」という計算式により算出する方法、②「世帯の基礎収入×学校教育費に相当する生活費指数÷世帯の生活費指数」という計算方式により算出する方法、③「算定方式により算出した婚姻費用(子供の生活費部分に限る)または養育費×学校教育費分の生活費指数÷子供の生活費指数」、④「子供に割り当てられる基礎収入×子供の生活費指数のうち教育費の占める割合」という計算式により算出する方法が考えられます。それぞれの計算方法により婚姻費用や養育費の中で考慮済みとなる学校教育費の金額は異なりますが、自身の状況(学費等の加算を請求する側、請求される側)に照らしてベストな計算方法を主張していくべきです。

世帯収入が高い場合の学費加算について、より詳しくお知りになりたい方は以下をご覧ください。

1 世帯年収が高い場合の問題点

一般に、婚姻費用や養育費を算定する際に0歳から14歳までは年額13万1379円(公立中学校の学校教育費相当額)、15歳以上は年額25万9342円(公立高等学校の学校教育費相当額)の学校教育費がすでに考慮されているとされます(司法研究報告書第70輯第2号46頁)。

もっとも、改定標準算定方式においては公立学校の学校教育費を考慮した上で子の生活費指数が定められており、婚姻費用や養育費は基礎収入に子の生活費指数を乗じた値を基に算定されるところ、実際には世帯収入の増加にあわせて改定標準算定方式の中で考慮されている学校教育費も増加することになります。

具体的には、世帯年収(養育費の場合には義務者の年収)が732万9628円(公立中学校の子供がいる世帯の平均年収)または761万7556円(公立高等学校の子供がいる世帯の平均年収)を上回る場合には、年額13万1379円または年額25万9342円を超える学校教育費がすでに考慮されている可能性があります。

そこで、世帯年収(養育費の場合には義務者の年収)が上記金額を超える場合には婚姻費用や養育費の中ですでに考慮されている学校教育費を個別に計算した上で学費加算の要否を検討する必要があるといえます。

世帯年収が低い場合に考慮済みの学校教育費を修正するか?

理論上、世帯年収が(養育費の場合には義務者の年収)が732万9628円(公立中学校の子供がいる世帯の平均年収)または761万7556円(公立高等学校の子供がいる世帯の平均年収)を下回る場合には、考慮済みの学校教育費が年額13万1379円または年額25万9342円を下回る計算となります。

もっとも、このような場合に標準算定方式ですでに考慮済みとされる学校教育費をより低額に修正することは一般的ではなく裁判例も見当たりません。

2 考慮済みの学校教育費の計算方法

2.1 計算方法

考慮済みの学校教育費の計算方法としては、以下の4通りが考えられます。

①「平均的な学校教育費×世帯年収÷世帯平均年収」
②「世帯の基礎収入×学校教育費に相当する生活費指数÷世帯の生活費指数」
③「算定方式により算出した婚姻費用(子供の生活費部分に限る)または養育費×学校教育費分の生活費指数÷子供の生活費指数」
④「子供に割り当てられる基礎収入×12%または18.5%」

2.2.1 ①「平均的な学校教育費×世帯年収÷世帯平均年収」

①の「平均的な学校教育費×世帯年収÷世帯平均年収」という方法は、婚姻費用に関する裁判例である東京高決令和2年10月2日(令和2年(ラ)第1278号)や大阪家岸和田支審令和3年2月10日(令和2年(家)第101号)が採用する計算方法です。

この計算方法では、標準算定方式が前提とする世帯平均年収と実際の世帯年収の比を平均的な学校教育費に乗じるという簡単な方法で考慮済みの学校教育費を求めることができます。

①の計算方法の問題点

婚姻費用や養育費は、基礎収入(総収入から公租公課、職業費及び特別経費を控除した金額)を基に生活費指数を用いて権利者が受け取るべき金額を算出するところ、①の計算方法は基礎収入ではなく総収入を基礎として計算している点で改定標準算定方式が前提とする考え方と異なるといえます(結果として、適用される基礎収入割合が40%(世帯平均年収に乗じている基礎収入割合)から乖離するほど考慮済みの学校教育費の計算に誤差が出ることになります。)

また、本来的には1人の子供に割り振られるべき基礎収入の額は子供の数に応じて変動があるにもかかわらず、①の計算方法は1人の子供に割り振られるべき基礎収入の額が世帯年収のみに比例することを前提としている点で改定標準算定方式とは考え方を異にしています。


なお、①の方法は婚姻費用に関する裁判例で採用されているため、養育費の場合にどのような計算を行うべきかは必ずしも明らかではありません。
もっとも、養育費は義務者と子供が同居していると仮定し、義務者の基礎収入を義務者及び子それぞれの最低生活費の割合により按分計算する方法により算出される(司法研究報告書第70輯第2号12頁)ところ、仮に養育費に含まれる学校教育費を①の計算方法で算出する場合には「世帯年収」を「義務者の年収」と読み替えることになると考えられます。

2.2.2 ②「世帯の基礎収入×学校教育費に相当する生活費指数÷世帯の生活費指数」

②の「世帯の基礎収入×学校教育費考慮後の生活費指数と考慮前の生活費指数の差÷世帯の生活費指数」という方法は、婚姻費用に関する裁判例である名古屋高決平成22年3月23日(平成21年(ラ)第373号)が採用する計算方法です。

この計算方法は、父母の基礎収入をそれぞれ算出した上、父母の基礎収入の合計額に「学校教育費考慮前後の生活費指数の差(14歳以下の場合は11、15歳以上の場合は25)/世帯の生活費指数」を乗じることで考慮済みの学校教育費を求めるもので、世帯年収ではなく世帯の基礎収入を基礎としている点で改定標準算定方式の考え方に合致した計算方法といえます。

②の計算方法の問題点

子供の生活費に占める教育費の割合は、学校教育費考慮前後の生活費指数の差/子供の生活費指数という計算式では算出できないという点に問題が存在します。

具体的には、子供の生活費に占める教育費の割合は、「(学校教育費考慮後の生活費指数/世帯の生活費指数-学校教育費考慮前の生活費指数/世帯の生活費指数)÷学校教育費考慮後の生活費指数/世帯の生活費指数」という計算方法により算出されます。
そして、改定標準算定方式が前提とする親1人子1人の世帯を前提にすると、14歳以下の場合には約11.74%、15歳以上の場合には約18.38%となります。

一方、「学校教育費考慮前後の生活費指数の差/子供の生活費指数」は、14歳以下の場合には約17.74%、15歳以上の場合には約29.41%となり、実際の子供の生活費に占める教育費の割合とは大きく異なります。

これは、婚姻費用や養育費を算出する際の計算式では、学校教育費考慮前後の生活費指数は分子のみではなく分母にも影響するため、子供の生活費に占める学校教育費の割合が「学校教育費考慮前後の生活費指数の差/子供の生活費指数」と合致しないことによります。


なお、②の方法で養育費に含まれる学校教育費を計算する場合、「世帯の基礎収入」を「義務者の基礎収入」と読み替えることになると考えられます。

2.2.3 ③「算定方式により算出した婚姻費用または養育費×学校教育費分の生活費指数÷子供の生活費指数」

③の「算定方式または算定表により算出した婚姻費用(子供の生活費部分に限る)または養育費×学校教育費分の生活費指数÷子供の生活費指数」という方法は、岡健太郎「養育費・婚姻費用算定表の運用上の諸問題」判タ1209号11頁の中で提唱されている計算方法です。

この計算方法は算定した婚姻費用または養育費に「学校教育費考慮前後の生活費指数の差(14歳以下の場合は11、15歳以上の場合は25)/子供の生活費指数」を乗じるもので、簡易迅速な計算方法であるといえます。。

③の計算方法の問題点

婚姻費用や養育費には義務者が支払うべき子供の生活費が含まれているものの権利者が負担すべき子供の生活費が含まれていないため、算定方式または算定表により算出した婚姻費用や養育費を基礎として考慮済みの学校教育費を計算することは不正確と評価せざるを得ません。

また、②の計算方法と同様、子供の生活費に占める教育費の割合は「学校教育費考慮前後の生活費指数の差/子供の生活費指数」で算出できないという点でも問題があります。

2.2.4 ④「子供に割り当てられる基礎収入×子供の生活費指数のうち教育費の占める割合」

④の「子供に割り当てられる基礎収入×子供の生活費指数のうち教育費の占める割合」という方法は、松本哲泓『〔改訂版〕婚姻費用・養育費の算定』146頁で提唱されている計算方法です。

この方法は、子供に割り当てられる基礎収入をベースにすることで子供の数の変動に一定程度対応して婚姻費用や養育費の中で考慮されている学校教育費をより正確に算出しようとするものです。

④の計算方法の問題点

④の計算方法は、子供の生活費指数のうち教育費の占める割合を12%(子供が14歳以下の場合)または18.5%(子供が15歳以上の場合)として考慮済みの学校教育費を算出するものの、実際には子供の生活費指数のうち教育費の占める割合は一定ではないという点に問題があります。

具体的には親1人子1人の世帯を前提にすると、子供の生活費指数のうち教育費の占める割合は約11.74%(14歳以下の場合)または約18.38%(15歳以上の場合)となり上記割合とほぼ合致しますが、親2人子1人の世帯を前提にすると約14.14%(14歳以下の場合)または約22.62%(15歳以上の場合)となり、親2人15歳以上の子供2人の世帯を前提にすると約29.38%となります。

2.3 考察

学校教育費考慮前の生活費指数は、生活扶助基準の基準生活費を参照し、親1人世帯の基準生活費の額に対する子のみの基準生活費の額(親1人子1人の世帯の基準生活費の額から親1人世帯の基準生活費の額を控除した残額)の割合で求めることとされています(司法研究報告書第70輯第2号42頁参照)。

そのため、学校教育費考慮前の生活費指数は客観性の高い根拠により決まっており、疑義が生じる余地が少ない数値となっているといえます(世帯人数が増加するほどに逓減する居宅第2類費については完全には生活費指数に反映できていない面があることは否定できません。)。

一方、学校教育費考慮後の生活費指数は、平均的な学校教育費を年額13万1379円または年額25万9342円、前者についての世帯平均年収を732万9628円、後者についての世帯平均年収を761万7556円、親1人子1人の世帯という条件を設定した上、以下の計算式により算出しています(司法研究報告書第70輯第2号46頁参照)。

学校教育費考慮後の生活費指数の算定式

A×B×X÷(100+X)=A×B×C÷(100+C)+D

公立中学校または高等学校の子がいる世帯の平均年収:A
基礎収入割合:B
学校教育費考慮前の生活費指数:C
考慮済みの学校教育費:D
学校教育費考慮後の生活費指数:X


上記計算式により求められる学校教育費考慮後の生活費指数は、本来的には世帯人数により変動が生じるにもかかわらず、世帯人数により変動が生じる余地の少ない学校教育費考慮前の生活費指数と同様に親1人子1人の世帯を想定して算出している点で疑義が生じます。

具体的には、婚姻費用の算定方式を前提に世帯の人数を大人2人子供1人の世帯を想定した場合、学校教育費考慮後の生活費指数は65.95(14歳以下の場合)または81.02(15歳以上の場合)となり、学校教育費考慮後の生活費指数が62(14歳以下の場合)または85(15歳以上の場合)となることはありません。

これは、婚姻費用や養育費算定の際の簡易迅速性を重視し一定の範囲内で正確性を犠牲にして学校教育費考慮後の生活費指数を算出した結果であると考えられますが、その結果、婚姻費用や養育費に含まれる学校教育費相当額の計算を正確に行うことが困難となり①~④の計算方法が考えられる状況となっています。

3 計算方法による結論の違い

3.1.1 義務者の年収を1000万円、権利者の年収を200万円、子供を1人(15歳以上)とした場合

①~④の計算方法により考慮済みの学校教育費の額を計算すると、以下のとおり算出されます。

【婚姻費用で考慮済みの学校教育費】
①40万8543円
②42万6315円
③31万99円
④26万8152円


【養育費で考慮済みの学校教育費】
①34万453円
②54万540円
③44万4889円
④34万円

3.1.2 義務者の年収を1000万円、権利者の年収を200万円、子供を2人(14歳以下1人、15歳以上1人)とした場合

①~④の計算方法により考慮済みの学校教育費の額を計算すると、以下のとおり算出されます。

【婚姻費用で考慮済みの学校教育費】
①21万5092円(14歳以下の子供)、40万8543円(15歳以上の子供)
②15万4063円(14歳以下の子供)、35万144円(15歳以上の子供)
③11万5763円(14歳以下の子供)、26万3099円(15歳以上の子供)
④10万4202円(14歳以下の子供)、22万240円(15歳以上の子供)


【養育費で考慮済みの学校教育費】
①17万9243円(14歳以下の子供)、34万453円(15歳以上の子供)
②17万8137円(14歳以下の子供)、40万4858円(15歳以上の子供)
③14万6615円(14歳以下の子供)、33万3216円(15歳以上の子供)
④12万485円(14歳以下の子供)、25万4655円(15歳以上の子供)

3.2.1 義務者の年収を600万円、権利者の年収を600万円、子供を1人(15歳以上)とした場合

①~④の計算方法により考慮済みの学校教育費の額を計算すると、以下のとおり算出されます。

【婚姻費用で考慮済みの学校教育費】
①40万8543円
②43万1578円
③9万9146円
④27万1463円


【養育費で考慮済みの学校教育費】
①20万4217円
②33万2432円
③16万6216円
④20万9100円

3.2.2 義務者の年収を600万円、権利者の年収を600万円、子供を2人(14歳以下1人、15歳以上1人)とした場合

①~④の計算方法により考慮済みの学校教育費の額を計算すると、以下のとおり算出されます。

【婚姻費用で考慮済みの学校教育費】
①21万5092円(14歳以下の子供)、40万8543円(15歳以上の子供)
②15万5965円(14歳以下の子供)、35万4466円(15歳以上の子供)
③4万6410円(14歳以下の子供)、10万5479円(15歳以上の子供)
④10万5489円(14歳以下の子供)、22万2959円(15歳以上の子供)


【養育費で考慮済みの学校教育費】
①10万7546円(14歳以下の子供)、204271円(15歳以上の子供)
②10万9554円(14歳以下の子供)、248987円(15歳以上の子供)
③5万4777円(14歳以下の子供)、12万4493円(15歳以上の子供)
④7万4098円(14歳以下の子供)、15万6613円(15歳以上の子供)

3.3.1 義務者の年収を1000万円、権利者の年収を200万円、子供を1人(15歳以上)とした場合

①~④の計算方法により考慮済みの学校教育費の額を計算すると、以下のとおり算出されます。

【婚姻費用で考慮済みの学校教育費】
①40万8543円
②42万6315円
③0円
④26万8152円


【養育費で考慮済みの学校教育費】
①6万8090円
②11万6216円
③2万565円
④7万3100円

3.3.2 義務者の年収を200万円、権利者の年収を1000万円、子供を2人(14歳以下1人、15歳以上1人)とした場合

①~④の計算方法により考慮済みの学校教育費の額を計算すると、以下のとおり算出されます。

【婚姻費用で考慮済みの学校教育費】
①21万5092円(14歳以下の子供)、40万8543円(15歳以上の子供)
②15万4063円(14歳以下の子供)、35万144円(15歳以上の子供)
③0円(14歳以下の子供)、0円(15歳以上の子供)
④10万4202円(14歳以下の子供)、22万240円(15歳以上の子供)


【養育費で考慮済みの学校教育費】
①3万5848円(14歳以下の子供)、6万8090円(15歳以上の子供)
②3万8299円(14歳以下の子供)、8万7044円(15歳以上の子供)
③6777円(14歳以下の子供)、1万5402円(15歳以上の子供)
④2万5904円(14歳以下の子供)、5万4751円(15歳以上の子供)

4 実際の対応

以上のとおり、養育費や婚姻費用ですでに考慮済みとされる学校教育費は、計算方法により大きく金額が異なります。

改定標準算定方式は簡易迅速な算定を行うために一定の正確性を犠牲にしているところ、①~④の計算方法も程度の差はあれ正確性を犠牲にする部分があり、①~④の計算方法について必ずしも優劣をつけることはできません。

このような状況の中、実際に考慮済みの学校教育費が争いになる場合には①~④の計算方法の特徴を理解した上で、自己に最も有利な計算方法を主張していくべきと考えます。


※本記事では世帯収入が高い場合における学費加算の注意点についてご紹介いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。

そこで、婚姻費用や養育費の学費加算についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。