年金分割を請求したい

年金分割を請求したい

年金分割を請求したい

年金分割の請求 

厚生年金は支払った保険料の金額に応じて将来受給できる年金額が変わりますが、支払う保険料の金額は収入額によって決まります(収入が多いほど支払う保険料の金額も多くなります。)。

多くの夫婦では婚姻期間中の収入に差があるところ、必然的に夫婦のそれぞれが受給できる年金額にも差が出ることとなり夫婦間で不平等が生じます。

上記不平等は、夫婦が婚姻関係を続け生計を同じくする限り問題が顕在化することは稀ですが、夫婦が離婚する場合には夫婦が別個に生計を立てることになるため問題が現実化することとなります。

そこで、離婚する場合には夫婦間の厚生年金記録を分割する年金分割制度について十分に検討した上、必要に応じて年金分割の請求を行うことが重要です。

本ページでは、年金分割の内容、種類、年金分割の請求手続について解説いたします。

1 年金分割とは何か?

1.1 財産分与の内容

年金分割は、婚姻期間中の厚生年金記録を当事者間で分割できる制度です。
具体的には、厚生年金の報酬比例部分(2階建てになっている年金制度の2階部分)の算定基礎となる標準報酬等を夫婦間(事実婚を含む。)で分割できる制度で、3号分割と合意分割の2種類の方法が存在します。

年金分割を行うことにより、原則として婚姻期間中に夫婦が納付した厚生年金の払込記録を平等(按分割合0.5の場合)にすることができ、将来受給できる年金について離婚した夫婦間での平等を図ることが可能となります。

なお、過去に年金分割の按分割合を0.3とした裁判例(東京家審平成25年10月1日判時2218号69頁)が存在しますが、上記裁判例は平成27年10月に被用者年金制度が一元化される前であったため、夫婦の一方の年金についての年金分割が先行していたという状況において、他方の年金分割についての按分割合を0.3としたものです。

そのため、年金一元化後の現在では上記裁判例は妥当しないと理解することが可能です。

1.2 年金分割の対象とならない年金

年金分割は厚生年金記録を分割する制度であるため、各種私的年金については年金分割の対象とはならず、財産分与の中で解決すべき問題となります。

年金分割の対象とならない私的年金の具体例

・厚生年金基金
・国民年金基金
・確定給付企業年金
・確定拠出年金(企業型、iDeCo)など

2 3号分割

2.1 3号分割の内容

3号分割とは、夫婦の一方が他方の被扶養配偶者(国民年金法第7条第1項第3号の被保険者)となっていた期間について、被扶養配偶者が年金分割を請求することにより標準報酬等の分割を認める(按分割合0.5)制度です(厚生年金保険法第78条の14)。

2.2 メリット

3号分割は当事者間で合意する必要がなく、被扶養配偶者の請求のみで年金分割が認められるため、手続が簡単であるというメリットがあります。

2.3 デメリット

3号分割は、平成20年4月1日以降に被扶養配偶者となっていた期間についての年金分割を認める制度です。

そのため、平成20年3月以前に被扶養配偶者となっていた期間がある場合や配偶者の扶養に入っていなかったという場合には年金分割の対象が不十分となる可能性があるという点がデメリットとして挙げられます。

2.4 注意点

3号分割を行うにあたり、以下の点に注意が必要です。
なお、事実婚状態の場合でも3号分割を請求することは可能です(施行規則第78条の14第1号)。

2年間の請求期限

原則として離婚成立日の翌日から起算して2年以内に請求しなければなりません(法第78条の14第1項ただし書、施行規則第78条の17第1項第2号)。

もっとも、離婚から2年を経過するまでに調停又は審判の申立てをした場合であって、離婚後2年経過後または離婚から2年経過する日前6か月以内に調停成立又は審判が確定した場合には、調停成立日または審判確定日の翌日から6か月以内であれば年金分割の請求が可能です(施行規則第78条の17第2項、同規則第78条の3第2項)。

離婚後に相手方が死亡した場合

離婚後に相手方が死亡した場合には、死亡日から起算して1か月以内に請求しなければなりません(施行令第3条の12の14第1項)。

年金分割の請求時期

離婚後2年以内かつ当事者の死亡日から起算して1か月以内であれば年金分割の請求自体は可能です。
もっとも、年金分割は請求日から将来に向かってのみ効力を有する(法第78条の14第5項)ため、年金受給中や受給間近という場合には離婚成立後速やかに請求しておく必要があります。

相手方が障害厚生年金の受給者である場合

相手方(分割される方)が障害厚生年金の受給者であり、かつ、3号分割の対象期間(平成20年4月1日以降に被扶養配偶者となっている期間)を障害厚生年金の額の計算の基礎としている場合には3号分割を行うことはできないこととされています(法第78条の14第1項ただし書、施行規則第78条の17第1号)。

もっとも、3号分割の対象期間の中に障害厚生年金の額の計算の基礎になっていない部分があるという場合には、3号分割の請求が可能です(施行規則第78条の17第1号、施行令第3条の12の11)。

そのため、相手方が障害厚生年金の受給権者となった後に相手方の被扶養配偶者となっている期間については3号分割が可能という結論になります。

3 合意分割

3.1 請求方法

合意分割は、当事者が年金分割の按分割合を合意した場合や家庭裁判所が按分割合を定めた場合に年金分割の請求を認める制度です(法第78条の2)。

3.2 メリット

合意分割の対象となる期間は原則として婚姻が成立した日から離婚が成立した日までとなっています(施行規則第78条の2第1項第1号)。
また、合意分割の請求がなされた場合に婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれるときは合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされる(法第78条の20第1項)ため、合意分割を行うことで婚姻期間すべての標準報酬等の分割を行うことができます。

そのため、3号分割の場合とは異なり、平成20年3月以前や被扶養者となっていなかった期間についても年金分割を行うことができ、夫婦間でより平等な解決を図ることが可能といえます。

3.3 デメリット

合意分割を行うには当事者間の合意または家庭裁判所による審判等が必要であるため、当事者間で年金分割の按分割合に関する合意ができない場合には家庭裁判所へ調停や審判を申し立てる必要があります。

そのため、3号分割に比して手続が煩雑という点が合意分割のデメリットとして挙げられます。

3.4 注意点

3号分割に関する「2.4注意点」と同様、合意分割を行う場合にも各種の期間制限があるという点には注意が必要です(法第78条の2第1項ただし書、施行規則第78条の3、施行令第3条の12の7、法第78条の6第4項)。

なお、事実婚の場合にも合意分割を行うことは可能ですが、対象期間が被扶養配偶者であった期間のみに限定されます(施行規則第78条の2第1項第3号)。

4 年金分割の請求手続

4.1 3号分割と合意分割のどちらがよい?

3号分割は平成20年(2008年)4月1日以降に被扶養配偶者となっていた期間についての年金分割を認める制度である一方、合意分割は原則として婚姻してから離婚までの全期間についての年金分割を認める制度です。

上記のような対象期間の違いから、通常は合意分割を請求した方が分割される標準報酬等を多くすることができる上、夫婦間でのフェアな解決にも繋がるため、原則として合意分割を請求すべきといえます。

なお、極めて稀ではあるものの、「被扶養配偶者であった期間が主に平成20年4月である上、被扶養配偶者でなかった時期の収入が相手方配偶者よりも高額であった」という場合には3号分割の方が有利な解決となることもあります。

4.2 合意分割における合意の方法

合意分割の方法としては、主として以下の4通りの方法があります(施行規則第78条の4第1項)。

合意分割の方法

①夫婦又はその代理人が離婚後に一緒に年金事務所へ行った上、年金分割の手続を行う

②按分割合について公正証書等により合意しておき、年金分割を請求する当事者が年金事務所へ行った上で年金分割の手続を行う。

③離婚調停や離婚裁判の中で年金分割について附帯処分の申立て等を行っておき、離婚調停や離婚裁判の中で按分割合を決定しておく。その後、年金分割を請求する当事者が年金事務所へ行った上で年金分割の手続を行う。

④離婚成立後に年金分割の調停又は審判の申立てを行った上で按分割合を決定する。その後、年金分割を請求する当事者が年金事務所へ行った上で年金分割の手続を行う。

上記のうち①及び④は離婚を先行させる方法であるところ、相手方が不慮の事故等により亡くなったという場合には年金分割の請求ができなくなる可能性があるというリスクがあります(年金分割の調停成立や審判確定の前に相手方が死亡した場合、審判手続が当事者死亡により終了するため年金分割を一切請求できないことになります。)。

また、①については、離婚するほどに関係性が悪化した夫婦が一緒に年金事務所へ行くというのが現実的には困難な場合が少なくないという点でも問題があります。

そこで、合意分割を行う場合には、協議離婚の場合には②按分割合について公正証書等により合意しておく、調停離婚や裁判離婚の場合には③調停や裁判の中で附帯処分の申立て等を行っておくという対応がベストな方法といえます。

4.3 具体的な流れ

上記②及び③の方法で合意分割を行う場合の具体的な流れは以下のとおりです。

Step01 夫婦による話合い

まずは、年金分割を行うこと及び按分割合について夫婦間で話合いを行うことになります。

もっとも、夫婦間で話合いを行うこと自体が困難である場合には、話合いを行わずStep02の「当事者間で合意できなかった場合(話合いを行うことが難しい場合を含む。)の対応」を取ることも可能です。

Step02 按分割合の決定

当事者間で合意できた場合の対応
①の話合いにより当事者間で合意できた場合、年金分割の合意書を作成し、公証人による認証を受ける必要があります。
※公正証書を作成する場合よりもコストが抑えられるため、実務上は私署証書の認証という方法を取ることが多いです。


当事者間で合意できなかった場合(話合いを行うことが難しい場合を含む。)の対応
離婚調停や離婚裁判の中で年金分割についての附帯処分の申立て等を行い、調停または家庭裁判所の審判等により按分割合を決定することになります。

なお、離婚調停や離婚裁判の中で年金分割についての附帯処分の申立て等を行うためには、まずは年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を請求する必要があります(請求する際にはマイナンバーカード(または年金手帳)及び夫婦の戸籍全部事項証明書(6か月以内に交付されたもの)が必要です。)。

※情報通知書の請求手続について、より詳しくお知りになりたい方は年金事務所のWebサイトをご覧ください。

Step03 請求手続

当事者間で合意できた場合の対応
認証を受けた合意書、夫婦それぞれの戸籍全部事項証明書(1か月以内に交付されたもの。)及び「標準報酬改定請求書」を年金事務所へ提出して年金分割を請求する。

※標準報酬改定請求書は年金事務所に備え付けてありますが、郵送で年金分割の請求を行う場合には年金事務所のWebサイトからダウンロードして使用するのがおすすめです。


当事者間で合意できなかった場合(話合いを行うことが難しい場合を含む。)の対応
調停調書の抄本(和解調書の抄本、判決の抄本など)、夫婦それぞれの戸籍全部事項証明書(1か月以内に交付されたもの。)及び「標準報酬改定請求書」を年金事務所へ提出して年金分割を請求する。



※本記事では年金分割を請求する場合に押さえておくべきポイントをご紹介いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。

そこで、年金分割の請求についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。