婚約者の浮気相手に慰謝料請求は可能?

Q&A

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婚約者の浮気相手に慰謝料請求は可能?

Question

配偶者が不倫をした場合、不倫相手が配偶者のことを既婚者と認識していたのであれば、不倫をされた他方配偶者は不倫相手に対し原則として慰謝料を請求することが可能です。

では、婚約者が浮気をした場合、浮気をされた他方婚約者は浮気相手に対して慰謝料を請求することが可能でしょうか。

Answer

一般的な交際関係(婚約しておらず内縁関係にもない状態)を前提にした場合、交際相手が第三者と浮気したとしても、自由恋愛の範囲内として交際相手や第三者に対する慰謝料請求が認められないことに法的な争いはありません。

また、内縁関係が成立している場合、内縁の配偶者が不貞行為を行ったときには内縁の配偶者のみではなく不倫相手に対する慰謝料請求が認められることに法的な争いはほぼありません。

もっとも、その中間である婚約はしたものの内縁関係にないという場合において、婚約者が浮気をしたときに浮気相手に対する慰謝料請求が認められるかどうかについては法的に争いがあります。

この点について、裁判例の判断を前提にすると、婚約が解消されていない場合には浮気相手が害意を持っていた場合や浮気相手が社会的相当性を欠く不当な方法で性行為に及んだ場合など特段の事情がある場合を除き、浮気相手に対する慰謝料請求が認められないと考えられます。
一方、婚約者の浮気を原因として婚約が解消された場合、浮気相手が婚約関係の存在を認識していたのであれば、浮気相手に対する慰謝料請求は基本的に認められる傾向にあります。


婚約者の浮気相手に対する慰謝料請求について、より詳しくお知りになりたい方は以下をご覧ください。

1 配偶者の不倫相手に慰謝料請求が認められる根拠

配偶者の不倫相手に慰謝料請求が認められるのは、「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるから」(最三小判平成8年3月26日民集50巻4号993頁)です。

結婚しておらず交際関係にある男女の一方が浮気したという場合には「婚姻共同生活の平和」というものが観念できないことから、婚姻中の男女の一方が不倫した場合と同一の根拠によっては慰謝料請求が認められないことになります。

2 一般的な交際の場合(内縁関係になく、婚約もしていない場合)

一般に、内縁関係に至らない独身者同士の関係は自由恋愛の範囲内にあると考えられています。
そのため、内縁関係になく婚約が成立しているともいえない場合、交際相手が第三者と性的な関係を持ったとしても原則として交際相手に慰謝料自体が認められません。

そして、交際相手に対する慰謝料請求が認められない以上、交際相手と性的な関係を持った第三者に対する慰謝料請求も認められないことになります。


なお、交際相手が浮気した場合の慰謝料請求については、以下の裁判例が参考となります。

東京地判平成26年8月21日(平成25年(ワ)第11743号)

「原告と被告Y1との婚約を認定できない以上、被告Y1が被告Y2との交際・結婚を理由に原告との交際をやめたことについて、権利侵害ないし違法性を認めることはできないから、被告Y1について不法行為は成立しないというべきであり、それを前提とする被告Y2の不法行為も成立しない。」

東京地判平成29年6月1日(平成28年(ワ)第9450号)

「本件において被告と訴外Aが内縁関係にあったと認めるに足りる証拠はなく、また、被告が原告に対して避妊具を使用しない性交渉を強要したり、結婚を考えていることを強調して説得し、交際を続けたなどの事実を認めるに足りる証拠もないこと、そのほか、本件において原告及び被告との間で婚姻予約があった事実は存在しないことからすれば、被告において、同時期に原告の他にも交際中の女性が存在していたことがうかがわれることや原告に対して結婚を前提とする交際をしているかのような誤解を与える可能性のある言動をとっていたことを勘案しても、本件における被告の言動が原告の人格権を侵害する違法な行為であったとまでは認められない」

3 内縁関係にある場合

「内縁とは、婚姻の届出をしていないため、法律上は夫婦と認められないが、事実上夫婦同然の生活をする男女関係のこと」をいいます(東京地判令和3年3月9日)。

内縁解消に際し財産分与請求権が認められているように、内縁関係は婚姻関係に準じるものとして一定の法的保護が与えられているところ、内縁の配偶者の不貞行為は結婚している場合の配偶者の不貞行為と同視することが可能です。

そのため、内縁の配偶者が不貞行為を行った場合、内縁関係に関する「共同生活の平和を侵害する」ことを理由として、内縁の配偶者の不倫相手に対し慰謝料を請求できることに法的な争いはほぼありません(もっとも、不倫相手が内縁関係の存在を認識していたことの証明は必ずしも容易ではないことから、実際に慰謝料を請求する場合には立証の観点で問題が生じやすい点には注意が必要です。)。

なお、内縁の配偶者の不倫相手に対する慰謝料請求については、以下の裁判例が参考となります。

東京高判平成29年12月7日(平成29年(ネ)第3732号)

「第一審原告とAは、入籍はしていないもののこれに準ずる法的保護に値する婚姻共同関係(内縁関係)に入ったと解するのが相当である。そうすると、結婚式当日の夜、結婚式に出席した第一審被告がAと2人でホテルに宿泊した行為は、その際に性交渉を持ったか否かに関わらず、第一審原告との関係において、内縁関係たる婚姻共同生活の平和を侵害する行為に該当し、また、その後同年5月10日から同年7月11日まで同居するなどしてAと継続的に肉体関係を持った行為は、同年6月25日の入籍の前後を通じて、全体として、第一審原告に対して婚姻共同生活の平和を侵害する不法行為となると解するのが相当である。」

千葉地判令和4年6月23日(令和3年(ワ)第813号)

「本件行為は、被告が、Aと性交に及ぶことを前提にされた性的接触行為といえ、それ自体原告とAとの間の内縁関係に係る共同生活の平和を害する行為であったといえる。」

※なお、被告が内縁関係を認識していなかったとして請求は棄却されています。

4 婚約している場合

4.1 裁判例

婚約者の浮気相手に対する慰謝料請求については、以下の裁判例が参考になります(③と④についてはクリックすると開きます。)。

①東京地判平成25年6月13日(平成24年(ワ)第369970号)

新株発行が違法であるとして会社の代表取締役に対し損害賠償請求をした事案について、

「民法405条は,いわゆる重利の特約がされていない場合においても,一定の要件の下に,債権者の一方的な意思表示により利息を元本に組み入れることができるものとしている。これは,債務者において著しく利息の支払を延滞しているにもかかわらず,その延滞利息に対して利息を付すことができないとすれば,債権者は,利息を使用することができないため少なからぬ損害を受けることになることから,利息の支払の延滞に対して特に債権者の保護を図る趣旨に出たものと解される。そして,遅延損害金であっても,貸金債務の履行遅滞により生ずるものについては,その性質等に照らし,上記の趣旨が当てはまるということができる(大審院昭和16年(オ)第653号同17年2月4日判決・民集21巻107頁参照)。これに対し,不法行為に基づく損害賠償債務は,貸金債務とは異なり,債務者にとって履行すべき債務の額が定かではないことが少なくないから,債務者がその履行遅滞により生ずる遅延損害金を支払わなかったからといって,一概に債務者を責めることはできない。また,不法行為に基づく損害賠償債務については,何らの催告を要することなく不法行為の時から遅延損害金が発生すると解されており(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),上記遅延損害金の元本への組入れを認めてまで債権者の保護を図る必要性も乏しい。そうすると,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金については,民法405条の上記趣旨は妥当しないというべきである。したがって,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできないと解するのが相当である。」と判断。

②東京地判令和2年8月20日(令和元年(レ)第621号)

「婚約は、将来の結婚を約束する合意であり、当事者間の合意によって成立し、以後、婚姻関係の形成に向けてその準備を始めるものであるから、婚約の当事者は、互いの期待に背かないよう、合意を尊重し、行動すべき義務(貞操義務を含む。)を負うものというべきである。もっとも、法的な婚姻関係を形成しているわけではないから、既に内縁関係にあるといえる婚姻関係に準じる状態になっている場合は別として(この場合には、当事者の一方と性交渉を持った第三者は、不貞行為を行ったものとして共同不法行為責任を負う。)、婚約をしたというだけで、直ちに婚姻関係と同様の保護を受けうるとはいえず、婚約の当事者間においてその婚約合意の内容として相手方に対して貞操義務を負うのは上記のとおりであるとしても、その合意の効果が直ちに第三者に及ぶものではない。婚約当事者間の合意に基づく貞操義務を婚約当事者が守るかどうかは、主として本人の意志にかかっているものというべきであって、婚約当事者との間で性交渉を持った第三者が不法行為責任を負うのは、当該第三者が、社会的相当性を欠く不当な方法で婚約当事者の一方に干渉して性行為に及んだ場合など、特段の事情がある場合に限られるべきである。また、婚約の履行として婚姻届の提出を強制することができないように、婚約後、婚姻に至るかどうかは婚約当事者の意思によるべきであることからすると、婚約後、第三者の行為が関係して婚姻に至らず、婚約が解消された場合において、当該第三者が当然に不法行為責任を負うのは、第三者が婚約の履行に不当に干渉し、妨害して解消させたときに限られるというべきである。」

③東京地判平成24年10月31日(平成23年(ワ)第9593号)

「婚約指輪をはめている女性をみれば、婚約状態にあると容易に推察できるから、被告Y1は、Bが婚約していることを認識したというべきであり、それにもかかわらず、同人と肉体関係を持ち、それにより原告とBの婚約関係を破たんさせた被告Y1の行為は、悪意をもって婚約を破綻させたものとして、婚約中であることを当然認識しながら被告Y1との肉体関係を持ったBとの共同不法行為を構成するものというべきである。」

④東京地判平成26年11月7日(平成25年(ワ)第17558号、同第29526号)

「被告らが性的関係をもったことは、原告と被告Y2の婚約関係を侵害し、これを破綻せしめるものであり、また、被告Y2は、婚約当事者として婚姻を成立させるよう努力すべき義務に違反したのであり、被告らには不法行為が成立する。」

4.2 婚約者の浮気相手に対し慰謝料請求できるか

まず、婚約者が浮気した場合、配偶者や内縁の配偶者が不倫した場合のように「共同生活の平和を害する行為」であることを理由に慰謝料を請求することはできません。

もっとも、婚約者間では将来婚姻する旨の合意を尊重し行動すべき義務(貞操義務を含む。)が存在するところ、浮気をした婚約者に対しては上記義務違反を理由として慰謝料請求を行うことが可能です。
ただし、上記義務はあくまで婚約者間の義務に留まるため婚約者の浮気相手に対し慰謝料請求が可能かどうかは明らかではありません。

この点について、裁判例①や裁判例②を前提にすると、婚約者の浮気相手に対し慰謝料請求を行うことができるのは以下のような場合に限られると考えられます。

婚約が解消されていないとき
第三者が、特別の害意をもって婚約を破棄させることのみを目的としていた場合や社会的相当性を欠く不当な方法で婚約当事者の一方に干渉して性行為に及んだ場合など特段の事情がある場合

婚約が解消されていないとき
第三者が、特別の害意をもって婚約を破棄させることのみを目的としていた場合や社会的相当性を欠く不当な方法で婚約当事者の一方に干渉して性行為に及んだ場合など特段の事情がある場合

上記のうち婚約が解消された場合については、裁判例③や裁判例④を前提にすると、婚約者の浮気を原因として婚約が解消されたときには「第三者が婚約の履行に不当に干渉し、妨害して解消させた」といえるため、浮気相手である第三者に対し慰謝料を請求することが可能であると考えられます。