不倫の調査費用(探偵会社・興信所の費用)は相手に請求できる?

Q&A

Q&A

不倫の調査費用(探偵会社・興信所の費用)は相手に請求できる?

Question

配偶者の不倫が疑われるものの証拠がないという場合、探偵会社や興信所に不倫の有無の調査を依頼するということがあります。

その場合に要する調査費用は、調査内容に応じて数十万円から300万円程度が必要となることが多いですが、この調査費用は不倫相手に請求できるのでしょうか。

Answer

過去数年分の裁判例を分析する限り、調査費用を損害として認めなかった裁判例の方が多く存在するものの、調査費用を損害として認めた裁判例も存在します。

もっとも、調査費用の請求が認められる場合でも、調査の必要性と相当性が肯定される範囲でのみ請求費用が認められるため、実際に支払った調査費用全額の請求が認められることは稀であり、調査費用のうち10万円から数十万円程度のみが損害として認められる傾向にあります。

このような裁判例の傾向を踏まえると、実際に不倫の証拠収集を行うときは以下の①から③の対応を取ることをお勧めいたします。

①可能な限り自力で証拠を集める。

②やむを得ず調査会社に依頼する場合でも、不倫の手がかりをもとに調査日数を限定するなどして調査費用を低額に抑える(不倫の事実の調査の場合は30万円程度、不倫相手の氏名及び住所の調査の場合は10万円程度が目安です。)。

③裁判になった場合は、調査費用を念のために請求する。


裁判例の内容について、より詳しくお知りになりたい方は以下をご覧ください。

1 調査費用を損害として認めなかった裁判例

以下の①から⑤の裁判例では、調査費用が証拠収集や立証手段の獲得のための費用であることなどを理由に、一般に調査費用が不倫(不貞行為)と因果関係の認められる損害にはあたらないとされています。
上記の理由付けを前提にすると、調査の必要性や相当性に関係なく調査費用の請求が認められないことになります。

一方、⑥から⑧の裁判例では、調査の必要性が肯定できないことを理由に、調査費用が不倫(不貞行為)と因果関係の認められる損害にはあたらないとされています。
そのため、上記の理由付けを前提にすると、調査の必要性や相当性が肯定される時は調査費用の請求が認められるということになります。

なお、⑨や⑩の裁判例のように、調査費用を損害として認めることを否定しつつ、慰謝料を算定する際の判断要素とするものもあります。

①東京地判令和元年6月10日(平成30年(ワ)第18371号)

調査費用として26万4600円を支出した事案について、「当該調査費用が避けることのできない支出であったと認めるには足りず,一種の訴訟準備費用に当たるものと解されるから,弁護士報酬とは別の独立した損害項目として相当因果関係を認めるには足りない。」と判断。

②東京地判令和元年12月18日(平成31年(ワ)第1418号)

調査費用として67万6658円を支出した事案について、「調査費用は,本件請求に関する証拠収集のための費用であり,いかなる証拠を収集するかは専ら原告の判断によるものであるから,本件不貞行為と相当因果関係のある損害とはいえない。」と判断。

③東京地判令和2年2月20日(平成30年(ワ)第30826号)

調査費用として合計22万6800円を支出した事案について、「不貞事案における探偵業者を通じた調査結果の取得は,詰まるところ,不法行為の被害者における立証手段の獲得に尽きるのであるから・・・これを当然に加害者の不法行為と相当因果関係のある損害に当たると捉えるのは困難というべきである。」と判断。

④東京地判令和3年9月3日(令和2年(ワ)第28432号)

調査費用として44万9144円を支出した事案について、「調査費用は証拠収集のための費用と考えられるところ,本件における被告とAの不貞行為の立証のためにいかなる証拠を収集するかは,専ら原告の判断と選択によるものであるから,それが不貞行為の立証のために有用であったとしても,そのことのみをもって,被告とAの不貞行為との間に相当因果関係があると認めることはでき」ないと判断。

⑤東京地判令和3年10月29日(令和2年(ワ)第3467号)

調査費用として76万9062円を支出した事案について、「一般に証拠収集費用が権利や法律上保護される利益の侵害により生じる不利益であるとは直ちに評価し難い。また,不貞行為は,性行為の有無という単純な事実であって,その存否及び関係者の確定のために専門的知見に基づく調査,判断が必要とはいえない。したがって,調査費用は,本件の不貞行為により通常生ずべき損害とは認められない。」と判断。

⑥東京地判令和2年9月25日(令和元年(ワ)第20041号)

調査費用として78万3044円を支出した事案について、「本件では,訴外Aが何らかの不貞行為を行っていることを容易に推測・説明できる状況であり,このほか,業者への調査依頼後ではあるものの,原告は,訴外Aの携帯電話から本件不貞行為の内容や相手方についての決定的な資料を得ており,同資料は業者による調査とは独立して得られたものである。そうすると,業者による調査が必要不可欠であったとはいえず,調査費用につき,本件不貞行為と相当因果関係のある損害であると認めることまではできない。」と判断。

⑦東京地判令和3年4月22日(令和元年(ワ)第18947号)

調査費用として162万円を支出した事案について、「原告がAのスマートフォンにおける被告とのLINEのやり取りを見たことから,Aが不貞行為に及んでいることが原告に露見したこと,そして,Aはその際に本件不貞行為について否定したり弁解をしたりすることなく,原告に対して離婚したいと申し出たことが認められる。そうすると,原告が調査会社に依頼してAの行動調査を行わなければ本件不貞行為は判明しなかったものであると認めることはできないから,原告が調査会社に支払った調査費用は,本件不貞行為と相当因果関係のある損害とはいえない。」と判断。

⑧東京地判令和3年11月22日(令和元年(ワ)第26427号)

調査費用として50万円を支出した事案について、「原告において探偵事務所・・・に依頼した時点でAの言動に疑義が生じていたとしつつ,Aの寝泊まり場所の調査を目的としていたというのであり,調査の必要性が不明確であることに照らし,調査費用については,被告がAと不貞行為に及んだことと相当因果関係のある損害とまでは認められない。」と判断。

⑨東京地判令和3年10月28日(令和2年(ワ)第29489号)

調査費用として300万円を支出した事案について、「調査費用は,本件請求に関する証拠収集のための費用であり,いかなる証拠収集方法を選択するかは専ら原告の判断によるものであるから,調査費用それ自体をもって,被告の上記不貞行為と相当因果関係のある損害ということはできず、原告がこのような出費をしたことは,慰謝料算定の一事由として考慮するのが相当である。」と判断。

⑩東京地判令和2年10月7日(令和元年(ワ)第11782号)

調査費用として155万5200円を支出した事案について、「不貞行為の存否は,要するに性的関係の有無という単純な事実の存否にすぎず,専門家の専門的調査,判断を要するようなものではないこと,・・・反訴原告が・・・不貞行為による損害賠償を求める通知をした際,反訴原告は前記の調査結果の存在に言及していなかったにもかかわらず,反訴被告は性的関係を持ったことを否定しなかったことなどの事情に照らすと,前記調査費用は,本件の不貞行為と相当因果関係のある損害であるとは認められない。」「ただし,反訴原告が約150万円もの費用をかけて不貞行為の存否を調査したことは,慰謝料額を算定するにあたっての一事情として考慮すべきである」と判断。

2 調査費用を損害として認めた裁判例

以下の①から④までの裁判例では、配偶者が不倫の事実を否認していたこと等を考慮し、不倫行為の調査の必要性を認めた上で、調査費用のうち約30万円から100万円について相当性を認めました。

一方、⑤から⑧の裁判例では、不倫行為の調査の必要性が無い場合でも、不倫相手の特定のための調査の必要性を認めた上で、調査費用のうち10万円から20万円について相当性を認めました。

なお、⑨の裁判例のように、不倫行為の調査の必要性が必ずしも明確ではない場合でも、違約金の合意が存在することなどを考慮した上で、調査費用のうち10万円について相当性を認めた裁判例もあります。

①東京地判令和2年3月5日(平成30年(ワ)第25960号)

調査費用として401万7600円を支出した事案について、「被告及びAが共に本件不貞行為の存在を否認していることに鑑みると,原告が被告の不法行為責任を追及するに当たり,被告及びAの行動調査を依頼し,その調査結果を取得する必要性は高かったといえるから,上記調査費用のうち40万円を,本件不貞行為に係る被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認める。」と判断。

②東京地判令和2年12月17日(令和元年(ワ)第20926号)

調査費用として27万1101円を支出した事案について、「配偶者が不貞行為を行った場合において,不貞行為を疑った他方配偶者が不貞行為の有無を調査するために支出した費用は,社会通念上相当と認められる範囲において不貞行為と相当因果関係のある損害と認めるべきである。これを本件についてみると,・・・原告がAについて不貞行為を疑って調査会社にAの行動調査を依頼し,・・・本件調査によって本件不貞行為を知ったこと・・・が認められる。以上によれば,本件調査は1日と短期間であり,費用も不相当に高額とまでいえないから,その全額を被告の不貞行為と相当因果関係のある損害と認める。」と判断。

③東京地判令和3年7月13日(令和2年(ワ)第4922号)

調査費用として235万円を支出した事案について、不倫の「事実を確認できたのは本件調査会社による調査の結果であり,同調査は本件にとって不可欠のものであったといえる。そして,本件調査会社によるAの行動確認が・・・12日間行われたこと・・・,原告がこの調査のための着手金及び調査料として合計235万円を本件調査会社に支払ったこと・・・なども考慮すると,本件調査会社に支払った費用のうち100万円をもって相当因果関係ある損害と認める。」と判断。

④東京地判令和3年9月17日(令和2年(ワ)第22880号)

調査費用として105万6400円を支出した事案について、「原告は・・・本件不貞行為がうかがえる被告とA子とのラインのやり取りを見て写真を撮影したものの,A子及び被告は,当時から本件不貞行為を否定しており,原告にとっては相手の男性(被告)の氏名・住所すら分からず,調査会社に調査を依頼して初めて判明したのであるから,その調査をしなければ被告に対する責任追求は困難であったと認められ,その意味で上記調査費用は本件不貞行為により必要となった費用であるということができる。しかし,・・・A子と被告が被告車両に同乗して行動を共にしていた事実に加え,被告車両のナンバーも把握したこと,・・・A子が被告と共に被告宅に入って2人で過ごしたことも判明したこと,・・・被告車両の情報から被告の氏名及び住所も判明したことから,それ以降の調査が必須であったとは認められない。また,それ以前の調査費用99万円(税込み)についても,あまりにも高額であり,これを全額認めるのは相当といえない。そこで,このうち約3分の1に当たる30万円を相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。」と判断。

⑤東京地判令和2年11月17日(令和元年(ワ)第34010号)

調査費用として64万8000円を支出した事案について、「Aは不貞行為を認めたものの,原告には被告の氏名を明らかにせず,被告との不貞行為を継続していたのであるから,原告がAの行動調査のために調査会社に支払った調査費用のうち20万円は,被告の不法行為と相当因果関係を有する損害と認めることができる。」と判断。

⑥東京地判令和2年12月9日(令和2年(ワ)第12241号)

調査費用として78万6397円を支出した事案について、「原告は,本件調査会社に被告とAとの関係等の調査を依頼する前にAの携帯電話内の情報により本件不貞行為に気付いていた・・・のであって,本件調査会社による調査を行わなくても,本件不貞行為の存在を認識し,本件訴訟において本件不貞行為を立証することが可能であったと考えられることに照らすと,本件調査会社に支払った調査費用の全額を本件不貞行為と相当因果関係のある損害と認めることはできない。他方で,原告は,前記情報からは,被告の氏名,住所等の特定をできなかったとうかがわれることその他諸般の事情をしん酌すると,当該調査費用のうち10万円をもって本件不貞行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。」と判断。

⑦東京地判令和3年8月10日(令和2年(ワ)第18443号)

調査費用として115万円を支出した事案について、「原告は,上記調査によらずとも被告とAの不貞行為について一定の証拠を収集することができていること,他方で,原告が上記証拠を元に被告を特定することは困難であったと考えられること,被告は,これらの証拠を踏まえても,Aとの間の不貞関係を争っていること等の諸事情に照らすと,原告が支出した上記金額のうち,被告の不貞行為と相当因果関係のある費用は,12万円とするのが相当である。」と判断。

⑧東京地判令和3年9月3日(令和2年(ワ)第15236号)

調査費用として101万4097円を支出した事案について、「株式会社Xよる調査は,本件における主張立証との関係でどの程度必要であったか不明であるというほかなく,原告が同社に支払った調査費用について被告の不貞行為と相当因果関係があるということはできない。他方,原告は,株式会社Yによる調査の結果,被告とAがラブホテルに宿泊していたこと等に関する確実な証拠を入手することができ,同調査により被告の住所地を知るに至ったものと認められ,他方で,被告は,これらの証拠を踏まえても,Aとの不貞行為を争っていること等の諸事情に照らすと,原告が支出した上記金額のうち,被告の不貞行為と相当因果関係のある費用は,10万円とするのが相当である。」と判断。

⑨東京地判令和3年2月24日(令和2年(ワ)第22787号)

調査費用として46万4458円を支出した事案について、「Aが本件不貞行為を否定していたことや,本件契約が記載されている公正証書において,再び不貞行為等をした場合等について相当額の違約金が定められており,Aや被告が素直に不貞行為を認めるか疑問があることなどに照らせば,原告が調査会社に調査を依頼したことは,本件契約に反した不貞行為等があったかの確認をするためにやむを得ない面があったというべきである。そうすると,調査費用(46万4458円)のうち,10万円の範囲で本件不法行為と因果関係があったと認められる。この点,被告は,聞かれれば正直に事実を述べたと主張するが,被告は,本件契約によって,Aとの不貞行為等はしないと約束していたにもかかわらず,それを破って本件不貞行為に及んでいるのであり,原告が,被告とAとの不貞を疑って尋ねたとしても否定することは十分想定される状況といえる。そうすると,原告が,客観的な調査を必要としたのはやむを得ないというべきであり,被告の主張は採用できない。」と判断。

3 裁判例のまとめ

大きく分けると、裁判例には、①調査費用が証拠収集や立証手段の獲得のための費用であるとの理由で調査費用の請求を認めないものと、②調査の必要性及び相当性を肯定できる範囲で調査費用の請求を認めるものがあります。

また、具体的にどのような事情があれば調査の必要性や相当性が肯定されるかは裁判例ごとに異なりますが、㋐不倫行為の調査が必要であれば30万円程度、㋑不倫相手の氏名や住所の調査が必要であれば10万円程度を請求でき、㋒調査によらずに不倫行為や不倫相手の特定ができている場合には調査費用を請求できない傾向にあります。

4 裁判例を踏まえた実際の対応

4.1 可能な限り自力で証拠を集める

調査費用が証拠収集や立証手段の獲得のための費用であるとの理由で調査費用の請求を認めない裁判例の存在を前提にすると、調査の必要性や相当性に関係なく、不倫相手に対する調査費用の請求が認められない可能性があります。

そのため、まずは、「可能な限り自力で証拠を集める」というのが重要です。

4.2 必要最小限の調査のみを行い調査費用を抑える

とはいえ、自力での証拠収集が困難な場合が存在するのも事実です。
その場合は、「不倫の手がかりをもとに必要最小限の調査のみを行い、調査内容や調査日数を限定することで調査費用を低額に抑える」ようにすべきです。

具体的には、調査費用の請求を認める裁判例の傾向として、不倫の事実の調査の必要性が認められるときは30万円程度、不倫相手の氏名や住所の調査の必要性が認められるときは10万円程度の調査費用の請求が認められていることを踏まえ、調査費用を上記金額以下に収めるのがおすすめです。

4.3 裁判になった場合は、調査費用を請求する

通常、慰謝料請求の交渉の中で調査費用を含めた合意をするのは容易ではありません。
むしろ、調査費用の請求にこだわることで交渉が決裂し、裁判になることで費用と時間が掛かってしまう可能性もあるため、交渉の中で調査費用を請求するかどうかは慎重に検討する必要があります。

もっとも、③裁判になった場合はもれなく調査費用を請求しておき、調査費用を独立した損害として認めてもらう、または少なくとも慰謝料の算定上考慮してもらうとの方針を取ることになります。