貞操権侵害等を理由に慰謝料120万円を獲得したQさんの事例

その他の事例

その他の事例

貞操権侵害等を理由に慰謝料120万円を獲得したQさんの事例

ご相談者Qさん

当事者:交際相手が既婚者であることを知った
性別:女性

相手職業:会社経営者
解決方法:代理交渉

※案件や依頼者様の特定ができないように内容を編集しております。

状況

Qさんは、2年以上にわたり交際していた男性からプロポーズされ、その男性と結婚することになりました。
その後、Qさんは、男性との間で結婚する日を具体的に決めた上、Qさんの家族に男性を紹介したり家族の集まりに男性を呼んだりするなど男性と家族ぐるみの付き合いをするようになりました。

しかし、その後、Qさんは、ふとしたきっかけで男性が既婚者ではないかと疑うようになり男性を問い質したところ、男性は自身が既婚者であることを認めるに至りました。

Qさんは、男性から「妻と近いうちに離婚する予定。妻との離婚成立後にQさんと婚姻したい。」との説明を受けたのですが、Qさんは男性に対する不信感から男性との交際を解消することとしました。

その後、Qさんは、男性が未婚であると偽ってQさんと交際し結婚の約束までしたことを許すことができず、男性に対する慰謝料請求を弁護士にご依頼されました。

弁護士の活動

弁護士は、男性に対し、貞操権侵害及び婚約不履行を理由として慰謝料請求を行いました。

これに対し、男性側も弁護士に依頼した上で、婚約が成立した事実を否定するなどして慰謝料の支払義務等を争ってきました。

このような男性の主張に対し、弁護士は、男性がQさんにプロポーズをした状況、婚姻届の提出予定日及び提出予定日を同日に決めた理由、婚姻後の生活に関する話合いの状況等を詳細に主張した上で婚約が有効に成立している旨の主張を行いました。

また、弁護士は、男性がQさんの親族の重要なイベントにQさんの婚約者として出席していたことでQさんが大きなショックを受けていることを理由に、慰謝料が相当程度の金額となることを主張しました。

その結果、最終的に、Qさんは、貞操権侵害等を理由とする慰謝料として男性から120万円を獲得することができました。

ポイント

1 貞操権侵害と慰謝料請求

(1)貞操権侵害とは
既婚者が独身であるかのように装った上で第三者と交際し性的関係を結ぶ行為は、当該第三者の貞操権(性的自己決定権、人格権)を侵害する社会的相当性を逸脱した行為として不法行為となり得ます。



(2)貞操権侵害を理由とする慰謝料額
貞操権侵害を理由とする損害賠償請求に関し、慰謝料の金額は交際期間の長さ、婚姻に関する期待の程度、妊娠出産または人工妊娠中絶の事実の有無、交際中の年齢、既婚者であることが判明した後の対応などを考慮して判断されることになりますが、通常は数十万円から200万円前後の範囲に収まる傾向にあります。

2 既婚者との間の婚約の有効性

本件では争いとはなりませんでしたが、既婚者との間で婚約が有効に成立しうるのかという点についても法的には問題となります。

(1)交際相手が既婚者であると認識していなかった場合
交際相手が既婚者であると認識しないままに婚約したという場合に関し、婚約が有効であることを前提に婚約破棄の慰謝料を認めた裁判例として東京地判令和3年12月1日(令和元年(ワ)第33930号)があります。



(2)交際相手が既婚者であると認識していた場合
一方、交際相手が既婚者であると認識した上で婚約したという場合、当該婚約が法的に保護されるべき有効なものというためには以下のような事情が必要とされています。

①既婚者である交際相手の行為の違法性が極めて強い事情があること(東京地判平成24年4月13日(平成22年(ワ)第46362号・平成23年(ワ)第21669号))


②当該婚姻が全く形骸化して実体のないものであるか、あるいは、夫婦間において離婚の合意が成立しているなど、当該婚姻関係を保護すべき実質的理由が消滅していること(東京地判平成24年7月26日(平成23年(ワ)第826号)、東京地判平成29年10月18日(平成28年(ワ)第24081号))


③結婚に向けた準備が具体的に進められるとともに、周囲の者が婚約していると認識するような外形的状況も存在するなど、もはや不貞関係にある者同士の婚約であっても法的に保護すべきというべき特段の事情があること(東京地判平成31年1月11日(平成29年(ワ)第7592号・平成29年(ワ)第16120号)、東京地判平成27年12月25日(平成26年(ワ)第31080号))



(3)まとめ
既婚者との間の婚約について、裁判例は当該婚約が法的保護に値するかどうかという観点から有効性を判断する傾向にありますが、法的保護に値する既婚者との婚約とは、①交際相手が既婚者と知らずにした婚約、②既婚者である交際相手の側の違法性が著しく大きい場合の婚約、③婚姻関係が破綻している既婚者との間での婚約、④結婚の準備が進みかつ外形的にも婚約していると認識される状況にある場合の婚約であると考えられます。

3 交際相手の男性が既婚者であると気づいた場合

交際相手が既婚者であると知らず、かつ、知らないことに過失がない場合には交際相手の配偶者に対する慰謝料の支払義務はありません。

もっとも、交際相手が既婚者であると知った後も交際を継続したという場合には、交際相手とその配偶者の婚姻関係が破綻しているというような事情がない限り、交際相手の配偶者に対し慰謝料を支払う義務が生じます。
また、仮に慰謝料の支払義務が生じないとしても慰謝料請求を受けること自体が法的なリスクといえます。

上記のようなリスクに対応するため、交際相手が既婚者であるかどうか疑問を持ったときには交際相手に独身証明書の提出を求めるなどして婚姻の事実の有無確認すること及びそのやり取りを記録として残しておくことが重要です。


※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例となります。