建築訴訟の「現地調停」、交通費や宿泊費は誰が負担する?弁護士が費用を解説

Q&A

Q&A

建築訴訟の「現地調停」、交通費や宿泊費は誰が負担する?弁護士が費用を解説

建築トラブルで訴訟を起こしたら、裁判所の判断で「現地調停」を行うことに。
「遠方の現場まで裁判官や専門家が来るらしいけど、その交通費や宿泊費は一体誰が払うの?」と、費用負担を心配される方は少なくありません。

この記事では、建築訴訟を提起した後に現地調停が行われることとなった際の費用負担について、分かりやすく解説します。

1 【結論】現地調停の交通費・宿泊費は、基本的に当事者の負担なし!

結論としては、現地調停のために、裁判官や調停委員が現地へ赴く交通費や宿泊費は、国が負担します(国庫負担)

そのため、訴訟を起こした当事者(あなた)がこれらの費用を請求されることはありません。
詳しくは「3.費用負担の詳しい内訳」で解説します。

2 そもそも「現地調停」とは?

「現地調停」とは、裁判官や調停委員が、実際の現場(現地)に赴いて行う調停手続のことです(民事調停法12条の4)。
建築に関するトラブルでは、図面や写真だけでは分からない建物の欠陥(法律用語で「瑕疵(かし)」といいます)の状況を、専門家である調停委員や裁判官が直接その目で見て確認することが、公正な解決のために非常に重要となります。

そのため、建築訴訟では、裁判の途中で裁判所の判断により、話し合いでの解決を目指す「調停」手続に切り替えられ(これを付調停といいます)、現地調停が行われることが少なくありません。

関連記事:訴訟が途中で調停に。不成立になったら裁判はどうなる?【弁護士が解説】

3 現地調停に関する交通費などはだれが負担する?

対象者旅費・宿泊費の負担者
調停委員国(国庫負担)
裁判官
調停官
裁判所書記官
国(国庫負担)
当事者当事者(自己負担)

民事訴訟の中で厳格に瑕疵の有無や程度について専門家の判断を求める場合、鑑定人による鑑定を行う必要があります。
しかし、鑑定には数十万~百万円以上の費用がかかることもあり、当事者にとっては大きな負担です。

そのような場合に、専門家調停委員が関与する民事調停の現地調停が有効です。

調停委員は非常勤の裁判所職員(民事調停法8条2項)であるところ、調停委員の手当は国庫負担(民事調停法10条、裁判所職員臨時措置法、一般職の職員の給与に関する法律22条1項)となるため、鑑定を行う場合のように当事者がこれを負担する必要はありません。

また、現地調停を行う場合には現地までの交通費がかかる上、現地の場所によっては宿泊費も必要となることがありますが、この場合の宿泊費や旅費については、国庫負担とされています(「民事調停に関する費用の取扱いについて」昭和二七年二月四日会甲第九九号高等長官地方所長あて経理・民事局長通知)。

関連リンク:
「民事調停に関する費用の取扱いについて」昭和二七年二月四日会甲第九九号高等長官地方所長あて経理・民事局長通知

4 (補足)訴訟手続の「現地調査」との違い

もし調停ではなく、訴訟手続のまま現地で調査を行う「現地調査」となった場合、費用負担が異なります。

具体的には、民事訴訟の場合に、専門委員が選任されることがあります(民事訴訟法92条の2)。
専門委員は、調停における専門家調停委員と同様に専門的知見を有する専門家に裁判手続に関与してもらい、裁判手続を円滑に進行させることを目的とする制度です。
(なお、民事調停においても専門委員が選任される場合がないわけではありません(民事調停法22条、非訟事件手続法33条1項)。)

民事訴訟の場合の専門委員も調停の場合の現地調停と同じように、進行協議期日として現地調査を行うことが少なくありませんが、その場合も現地までの交通費や宿泊費がかかります。

民事訴訟で現地調査を行う場合、裁判官及び裁判所書記官の旅費及び宿泊費については、当事者が費用を一時的に立て替える(これを「予納」といいます)必要があります(民事訴訟費用等に関する法律11条1項、12条1項)。
一方、専門委員の旅費については同様の規定は存在しません。

そのため、現地調査を行う場合、裁判官及び裁判所書記官の旅費及び宿泊費については当事者がこれを予納した上で最終的には訴訟費用として負担する当事者を決定する一方、専門委員の旅費及び宿泊費については国庫負担となるものと考えられます。

5 まとめ

この記事では、建築訴訟における現地調停の費用負担について解説しました。

・現地調停を行う場合の交通費・宿泊費は、国の負担であり、当事者が支払う必要はない。

・高額な「鑑定」費用をかけずに、専門家の意見を聞くことができるメリットがある。

・当事者自身の交通費は自己負担である。

・ただし、訴訟手続の中で現地調査を行う場合、裁判官や裁判所書記官の旅費等の予納が必要になる。



※本記事では現地調停を行う場合の交通費や宿泊費などの費用負担について解説いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。

そこで、法律問題についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。

関連法令(クリックすると開きます。)

民事調停法12条の4
調停委員会は、事件の実情を考慮して、裁判所外の適当な場所で調停を行うことができる。

民事調停法10条
民事調停委員には、別に法律で定めるところにより手当を支給し、並びに最高裁判所の定めるところにより旅費、日当及び宿泊料を支給する。

民事訴訟法92条の2
1 裁判所は、争点若しくは証拠の整理又は訴訟手続の進行に関し必要な事項の協議をするに当たり、訴訟関係を明瞭にし、又は訴訟手続の円滑な進行を図るため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。この場合において、専門委員の説明は、裁判長が書面により又は口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日において口頭でさせなければならない。
2 裁判所は、証拠調べをするに当たり、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、証拠調べの期日において専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。この場合において、証人若しくは当事者本人の尋問又は鑑定人質問の期日において専門委員に説明をさせるときは、裁判長は、当事者の同意を得て、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするために必要な事項について専門委員が証人、当事者本人又は鑑定人に対し直接に問いを発することを許すことができる。
3 裁判所は、和解を試みるに当たり、必要があると認めるときは、当事者の同意を得て、決定で、当事者双方が立ち会うことができる和解を試みる期日において専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。

民事調停法22条
特別の定めがある場合を除いて、調停に関しては、その性質に反しない限り、非訟事件手続法第二編の規定を準用する。ただし、同法第四十条、第四十二条の二及び第五十二条の規定は、この限りでない。

非訟事件手続法33条
1 裁判所は、的確かつ円滑な審理の実現のため、又は和解を試みるに当たり、必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、専門的な知見に基づく意見を聴くために専門委員を非訟事件の手続に関与させることができる。この場合において、専門委員の意見は、裁判長が書面により又は当事者が立ち会うことができる非訟事件の手続の期日において口頭で述べさせなければならない。

民事訴訟費用等に関する法律11条
1 次に掲げる金額は、費用として、当事者等が納めるものとする。
一 裁判所が証拠調べ、書類の送達その他の民事訴訟等における手続上の行為をするため必要な次章に定める給付その他の給付に相当する金額
二 証拠調べ又は調停事件以外の民事事件若しくは行政事件における事実の調査その他の行為を裁判所外でする場合に必要な裁判官及び裁判所書記官の旅費及び宿泊料で、証人の例により算定したものに相当する金額
2 前項の費用を納めるべき当事者等は、他の法令に別段の定めがある場合を除き、申立てによつてする行為に係る費用についてはその申立人とし、職権でする行為に係る費用については裁判所が定める者とする。

民事訴訟費用等に関する法律12条
1 前条第一項の費用を要する行為については、他の法律に別段の定めがある場合及び最高裁判所が定める場合を除き、裁判所は、当事者等にその費用の概算額を予納させなければならない。