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訴訟が途中で調停に。不成立になったら裁判はどうなる?【弁護士が解説】
訴訟を起こした後、裁判所の判断で話合いの手続(調停)に移行することがあります。これを「付調停(ふちょうてい)」と呼びます。
もし、この調停で話がまとまらず「不成立」となった場合、「せっかく起こした訴訟は無駄になってしまうのか?」、「もう一度、裁判をやり直さないといけないの?」と不安に思われるかもしれません。
ご安心ください。調停が不成立になっても、訴訟手続きが再開されるため、あらためて訴訟を提起し直す必要はありません。
この記事では、
・どのような場合に訴訟から調停に移行するのか(付調停とは?)
・調停が不成立になった後の、具体的な手続きの流れ
・知っておくべき法律上のルール
について、弁護士が分かりやすく解説します。

1 付調停とは?訴訟後に調停に移行する理由
訴訟提起した後に、裁判所が事件を調停に付すること(付調停)があります(民事調停法20条1項)。
付調停事件となるのは、主に以下のような場合です。
1.1 ケース1:本来、先に調停をすべき事件だった場合
特定の事件では「まず調停で話し合う」というルール(調停前置)があるため、いきなり訴訟を起こすと調停に回されます。
具体的には、離婚や離縁などの人事訴訟(家事事件手続法257条1項、244条)や借地借家法上の賃料増減額請求訴訟(民事調停法24条の2第1項)は、調停前置主義が採用されているため、訴訟提起前に調停の申立てを行っておく必要があります。
そのため、調停を申し立てることなくこれらの訴訟を提起すると、裁判所が事件を調停に付することになります(家事事件手続法257条2項、民事調停法24条の2第2項)。
調停前置の例外
調停前置とされている場合でも、裁判所が事件を調停に付することが適当でないと認めるときは調停前置の例外とされます(家事事件手続法257条2項ただし書、民事調停法24条の2第2項ただし書)。
裁判所が事件を調停に付することが適当でないと認めるときとは、主に以下の場合とされています(松川正毅『別冊法学セミナー新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法【第2版】』628頁)。
①相手方の所在不明
②相手方が調停行為能力を欠く程度に強度の精神障害を有する者である場合
③死者に代わって検察官を相手方にする事件
④渉外事件で調停手続による解決ができない場合
⑤事案の内容等に照らして到底調停成立の見込みがない場合
⑥その他適当でない場合
1.2 ケース2:建築・医療など、専門家の知見が必要な場合
建築訴訟やIT関係事件、医療過誤訴訟など訴訟の内容に専門的知見が必要なときは、訴訟事件が調停に付されることがあります。
とくに、東京や大阪では地方裁判所に建築紛争や医療過誤紛争などについての専門部が設置されている関係で、東京地方裁判所や大阪地方裁判所へ建築訴訟を提起した場合などには付調停事件とされることが少なくありません。
これらの訴訟は、専門的知見を必要とするため、専門家調停委員を手続に関与させることが紛争解決に資することから、付調停事件とされることが多いとおえます。
なお、当事務所でも、九州の地方裁判所に係属していた建築訴訟について、専門部がある大阪地方裁判所へ移送した上、その後、大阪地方裁判所で付調停事件となった案件があります。
関連記事:建築訴訟の「現地調停」、交通費や宿泊費は誰が負担する?弁護士が費用を解説
関連リンク:「東京地裁書記官に訊く ─建築関係訴訟・借地非訟 編(2022年版)─」LIBRA Vol.22 No.9 2022/9
1.3 ケース3(補足):ウェブ会議での和解が目的だった場合(現在はほぼなし)
令和5年2月28日まで、当事者の少なくとも一方が裁判所に出頭していない限り、電話会議等により訴訟上の和解を成立させることはできませんでした(令和4年法律第48号による改正前の民事訴訟法170条3項ただし書)。
そのため、和解を成立させる目的で、訴訟事件を調停に付した上で民事調停法17条の調停に代わる決定(17条決定)を利用したり、電話会議等の方法により調停を成立させたりしていました(民事調停法第22条、非訟事件手続法第47条、同規則42条により、民事調停では当事者がいずれも裁判所に出頭していない場合でも、電話会議等の方法により調停を成立させることが可能でした。)。
しかし、令和5年3月1日以降は当事者がいずれも裁判所に出頭していない場合でも電話会議等により訴訟上の和解を成立させることができるようになったため、和解を成立させる目的で調停に付するということは基本的になくなったといえます。
関連リンク:民事訴訟法等の一部を改正する法律について|法務省Webサイト
1.4 「付調停」の決定に納得できない場合は?
調停前置の場合も調停前置ではない場合も、家事事件手続法及び民事調停法には訴訟事件を調停に付する旨の裁判について即時抗告をすることができる旨の規定はありません。
そのため、調停前置か否かを問わず、訴訟事件を調停に付する旨の裁判に対しては不服申立てを行うことができません。
ただ、付調停事件となった場合でも合意が成立する見込みがない場合には調停が不成立となることから、不服申立てを行うことができないとしても、実際にはあまり問題とはなりません。
2 【結論】付調停事件が不成立になった場合、訴訟手続は再開される
付調停事件となる場合、まずは訴訟提起が前提となります。
訴訟が調停に付された場合、訴訟は一時ストップされることが一般的です。
ただし、場合によっては訴訟と調停を並行して進めるということがないわけではありません。
- 話し合いがまとまれば →【調停成立により解決】 訴訟は取り下げたことになり、ここで終了します。
- 話がまとまらなければ →【調停不成立により訴訟再開!】 ストップしていた裁判が、そのまま再開します。
付調停事件となった場合、調停事件が終了するまで訴訟手続が中止(民事調停法20条の3第1項、家事事件手続法275条1項)されるのが通常です。
また、調停が成立したり、審判や17条決定が確定したときは訴訟について訴えの取下げがあったとみなされる(民事調停法20条2項、家事事件手続法276条1項)一方、調停が不成立になった場合に訴えの取下げがあったとみなす規定はありません。
そのため、付調停事件が不成立になった場合、訴訟手続が中止などされていた訴訟事件の訴訟手続が再開することになることから、付調停事件において調停が不成立になったとしても、訴訟提起し直す必要はないといえます。
※本記事では付調停事件において調停が不成立となった後の手続について解説いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。
そこで、法律問題についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。
民事調停法20条
1 受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付した上、管轄裁判所に処理させ又は自ら処理することができる。ただし、事件について争点及び証拠の整理が完了した後において、当事者の合意がない場合には、この限りでない。
2 前項の規定により事件を調停に付した場合において、調停が成立し又は第十七条の決定が確定したときは、訴えの取下げがあったものとみなす。
3 第一項の規定により受訴裁判所が自ら調停により事件を処理する場合には、調停主任は、第七条第一項の規定にかかわらず、受訴裁判所がその裁判官の中から指定する。
4 前三項の規定は、非訟事件を調停に付する場合について準用する。
民事調停法20条の3
1 調停の申立てがあった事件について訴訟が係属しているとき、又は第二十条第一項若しくは第二十四条の二第二項の規定により事件が調停に付されたときは、受訴裁判所は、調停事件が終了するまで訴訟手続を中止することができる。ただし、事件について争点及び証拠の整理が完了した後において、当事者の合意がない場合には、この限りでない。
家事事件手続法274条
1 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件についての訴訟又は家事審判事件が係属している場合には、裁判所は、当事者(本案について被告又は相手方の陳述がされる前にあっては、原告又は申立人に限る。)の意見を聴いて、いつでも、職権で、事件を家事調停に付することができる。
家事事件手続法275条
1 家事調停の申立てがあった事件について訴訟が係属しているとき、又は訴訟が係属している裁判所が第二百五十七条第二項若しくは前条第一項の規定により事件を調停に付したときは、訴訟が係属している裁判所は、家事調停事件が終了するまで訴訟手続を中止することができる。
2 家事調停の申立てがあった事件について家事審判事件が係属しているとき、又は家事審判事件が係属している裁判所が前条第一項の規定により事件を調停に付したときは、家事審判事件が係属している裁判所は、家事調停事件が終了するまで、家事審判の手続を中止することができる。
家事事件手続法276条
1 訴訟が係属している裁判所が第二百五十七条第二項又は第二百七十四条第一項の規定により事件を調停に付した場合において、調停が成立し、又は次条第一項若しくは第二百八十四条第一項の規定による審判が確定したときは、当該訴訟について訴えの取下げがあったものとみなす。