【放置は危険!】擬制自白とは?裁判で不利にならないための基礎知識を弁護士が解説

Question

裁判所から訴状が届いたけれど、どう対応したら良いか分からない…

相手の言い分が事実と違うけど、反論しなかったらどうなる?

Answer

裁判で相手方の主張に対して何も反論しないでいると、「擬制自白(ぎせいじはく)」が成立し、相手の言い分を認めたことになってしまう可能性があります。
そうなると、裁判で著しく不利な状況に陥る可能性があります。

この記事では、「擬制自白」とは何か、どのような場合に成立し、どんな影響があるのか、そしてどうすれば避けられるのかを分かりやすく解説します。
特に、ご自身が裁判の当事者になってしまった場合に、必ず知っておくべき重要なポイントです。

なお、離婚裁判などの「人事訴訟」では、一般的な民事裁判とルールが異なり、擬制自白は成立しません。この記事の後半で詳しくご説明します。

1 そもそも「自白」とは?~裁判における自白の基本~

裁判における「自白」とは、簡単に言うと、相手方が主張する、自分にとって不利な事実を認めることを指します。

1.1 成立要件と効果

民事訴訟法159条と179条は「自白」について規定していますが、条文には自白の成立要件は規定されていません。
一般に、裁判上の自白の成立要件は以下のとおりであると考えられています(東京地裁平成27年7月31日判決参照)。

①口頭弁論又は弁論準備手続における
②相手方の主張と一致する
③自己に不利益な
④事実の陳述

参考文献:藤田広美『講義 民事訴訟法〔第2版〕』47頁

裁判上の自白が成立すると、以下の効果が発生すると考えられています。

・証明が不要となる(証明不要効。民事訴訟法179条)

・裁判所は、自白が成立した事実をそのまま判決の基礎としなければならない(審判排除効)

・自白が成立した事実について、原則として撤回ができなくなる(撤回禁止効)。裁判で相手方の主張に対して何も反論しないでいると、「擬制自白(ぎせいじはく)」が成立し、相手の言い分を認めたことになってしまう可能性があります。

民事訴訟法159条
1 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2 相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。
3 第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。

民事訴訟法179条
裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。

東京地裁平成27年7月31日判決(平成24年(ワ)第22051号 ・同第28960号)

「一般に,裁判上の自白とは,当事者が口頭弁論期日又は弁論準備手続期日において相手方が主張する自己に不利益な事実を認める陳述をいうところ,その対象となるのは,裁判上の自白が弁論主義の手続において認められるものであることからすれば,具体的事実のうちの主要事実と解すべきであり,間接事実及び補助事実について自白は成立しないと解すべきである。」

1.2 自白の対象~「事実」が対象であり、「法的評価」は対象ではない~

自白の対象はあくまで「事実」です(民事訴訟法159条、179条、東京地裁平成27年7月31日判決)。
事実」ではない「法的評価」は自白の対象とはなりません。

「法的評価」が自白の対象とならないことや自白が成立する損害の範囲については、以下の関連記事をご覧ください。
関連記事:
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交通事故裁判、相手が無断欠席…こちらの請求は全て通る?「擬制自白」の仕組みと注意点

1.3 自白の対象となる事実~「事実」の中でも「主要事実」に限られる~

事実」には、主要事実(一定の法律効果を発生させる法律要件に該当する具体的事実)、間接事実(主要事実の存在を推認させる事実)、補助事実(証拠の証明力を判断する際に使用される事実)があります。

主要事実、間接事実、補助事実の例
貸したお金を返して欲しいという裁判の場合、

・主要事実:「お金を貸した」という事実
・間接事実:「借用書がある」という事実
・補助事実:「証人が信頼できる人物である」という事実

このうち、裁判上の自白の対象となる「事実」は主要事実に限られ、間接事実や補助事実は含まれません(最高裁昭和41年9月22日第1小法廷判決・民集20巻7号1392頁)。

最高裁昭和41年9月22日第1小法廷判決・民集20巻7号1392頁

「間接事実についての自白は、裁判所を拘束しないのはもちろん、自白した当事者を拘束するものでもないと解するのが相当である。」

2 擬制自白とは?

「擬制自白」とは、相手方が主張している事実に対して、あなたが「それは違う」とはっきりと反論しなかった場合に、「その事実を認めた(自白した)ものとみなしますよ」という制度です(民事訴訟法159条1項)。
文字どおり、「自白したと擬制する(みなす)」ということです。

擬制自白が成立する場合、上記1.1の自白の3つの効果が生じるため、裁判に重大な影響を及ぼします。

公示送達がなされた場合の擬制自白
被告の住所等が不明なため通常の方法により送達できない場合、訴状等について公示送達がなされることがあります。

その場合、擬制自白は成立しません(民事訴訟法159条3項ただし書)。

3 調停離婚の場合

結論から申し上げると、離婚裁判のような「人事訴訟」では、擬制自白は成立しません。

3.1 人事訴訟(離婚裁判など)の特別なルール

離婚や親子関係など、個人の身分関係に関する裁判を「人事訴訟」といいます。
人事訴訟は、当事者の私益だけでなく、公益にも関わるとして通常の民事裁判とは異なる特別なルールが設けられています。

たとえば、通常の民事裁判では、裁判所は当事者が主張しない事実を判決の基礎とすることはできず(弁論主義の第1テーゼ)、当事者が主張したが争いがある事実については当事者が申し出た証拠により認定する必要がある(弁論主義の第3テーゼ)とされています。

これに対し、人事訴訟では、裁判所が当事者が主張しない事実の認定や職権で証拠調べを行うことが認められています(人事訴訟法20条)。

関連法令(クリックすると開きます)

人事訴訟法19条
1 人事訴訟の訴訟手続においては、民事訴訟法第百五十七条、第百五十七条の二、第百五十九条第一項、第二百七条第二項、第二百八条、第二百二十四条、第二百二十九条第四項及び第二百四十四条の規定並びに同法第百七十九条の規定中裁判所において当事者が自白した事実に関する部分は、適用しない。
2 人事訴訟における訴訟の目的については、民事訴訟法第二百六十六条及び第二百六十七条の規定は、適用しない。

人事訴訟法20条
人事訴訟においては、裁判所は、当事者が主張しない事実をしん酌し、かつ、職権で証拠調べをすることができる。この場合においては、裁判所は、その事実及び証拠調べの結果について当事者の意見を聴かなければならない。

3.2 離婚裁判では自白のルールが適用されない

また、人事訴訟では、民事訴訟法における自白に関する規定(民事訴訟法159条や179条など)が適用されないと定められている(人事訴訟法19条1項)ため、人事訴訟では裁判上の自白が成立しません。

3.3 結論:離婚裁判では擬制自白は成立しない

人事訴訟である離婚裁判では、そもそも裁判上の自白が成立せず、したがって、擬制自白も成立することはありません。
たとえ相手が裁判に出てこなかったり、主張に反論しなかったりしても、それだけで相手の言い分が全て認められるわけではなく、裁判所が証拠に基づいて事実を認定することになります。

4.擬制自白を避けるために~訴状が届いたらまずすべきこと~

もし、誰かから訴えられ、裁判所から訴状が届いた場合、擬制自白を避けるために最も重要なことは、「何もしない」という選択をしないことです。

具体的には、以下の対応を速やかに行う必要があります。

答弁書の提出: 訴状に同封されている「答弁書」という書類に、相手の主張に対するあなたの言い分(認める点、否認する点、あなたの主張など)を記載し、指定された期日までに裁判所に提出します。

裁判期日への出頭: 指定された裁判期日に出頭し、あなたの主張を口頭で伝えるか、事前に提出した答弁書の内容を述べます。

ご自身での対応が難しい、何を書けばいいか分からない、といった場合は、すぐに弁護士にご相談ください。


※本記事では「擬制自白とは?裁判で不利にならないための基礎知識」について解説いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。

そこで、法律問題についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。