【住民票が職権消除】相手の住所が不明でも訴訟できる?方法を解説
Question
訴訟を予定している相手の住所を調べるために住民票を取得したところ、住民票が職権消除されていました。
住民票が職権消除されている相手へ訴訟提起するにはどうしたらよいですか?

Answer
住民票が職権消除される原因はさまざまですが、行方不明となっていることが理由で住民票が職権消除されていることもあります。
このような場合でも、諦める必要はありません。主に以下の3つの方法で対応することが考えられます。
1 相手の現住所を徹底調査する。
2 「公示送達」を前提として訴訟を提起する。
3 「不在者財産管理人」を選任し、不在者財産管理人を相手に訴訟を提起する。
この記事では、住民票が職権消除される原因、その影響や住民票が職権消除されている相手へ訴訟提起する方法について解説いたします。
1 住民票の「職権消除」とその効果
1.1 住民票の「職権消除」とは?
「住民票の職権消除」とは、簡単に言うと、市区町村が「この人はもうここには住んでいない」と判断した場合に、その人の住民票を市区町村の権限で抹消する手続きのことです。
転居(同一の自治体内での住所変更)、転出、世帯変更を行った場合には、一定の期限内に役所へ届出を行う必要があります(住民基本台帳法23条~25条)。
正当な理由なく届出をしないと、5万円以下の過料に処せられる可能性もあります(住民基本台帳法52条2項)。
しかし、実態としてこれらの届出がなされないままとなっていることがあります。
その場合に、市町村長(特別区の区長を含む。住民基本台帳法2条)は、住民票を職権で消除すること及び職権行使に必要な調査権限が認められています(住民基本台帳法8条、34条、同施行令12条)。
なお、外国人については、法務省からの帰国または在留期間満了の通知(住民基本台帳法30条の50)を受け、住民票の職権消除が行われます。
住民基本台帳法
第23条(転居届)
転居(一の市町村の区域内において住所を変更することをいう。以下この条において同じ。)をした者は、転居をした日から十四日以内に、次に掲げる事項を市町村長に届け出なければならない。
一 氏名
二 住所
三 転居をした年月日
四 従前の住所
五 世帯主についてはその旨、世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄
第24条(転出届)
転出をする者は、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を市町村長に届け出なければならない。
第52条
2 正当な理由がなくて第二十二条から第二十四条まで、第二十五条又は第三十条の四十六から第三十条の四十八までの規定による届出をしない者は、五万円以下の過料に処する。
第8条(住民票の記載等)
住民票の記載、消除又は記載の修正(以下「住民票の記載等」という。)は、第三十条の三第一項及び第二項、第三十条の四第三項並びに第三十条の五の規定によるほか、政令で定めるところにより、第四章若しくは第四章の四の規定による届出に基づき、又は職権で行うものとする。
第34条(調査)
1 市町村長は、定期に、第七条及び第三十条の四十五の規定により記載をすべきものとされる事項について調査をするものとする。
2 市町村長は、前項に定める場合のほか、必要があると認めるときは、いつでも第七条及び第三十条の四十五の規定により記載をすべきものとされる事項について調査をすることができる。
3 市町村長は、前二項の調査に当たり、必要があると認めるときは、当該職員をして、関係人に対し、質問をさせ、又は文書の提示を求めさせることができる。
4 当該職員は、前項の規定により質問をし、又は文書の提示を求める場合には、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつたときは、これを提示しなければならない。
住民基本台帳法施行令
第8条(住民票の消除)
市町村長は、その市町村の住民基本台帳に記録されている者が転出をし、又は死亡したときその他その者についてその市町村の住民基本台帳の記録から除くべき事由が生じたときは、その者の住民票(その者が属していた世帯について世帯を単位とする住民票が作成されていた場合にあつては、その住民票の全部又は一部)を消除しなければならない。
第10条(転居又は世帯変更による住民票の記載及び消除)
市町村長は、転居をし、又はその市町村の区域内においてその属する世帯を変更した者がある場合において、前条の規定によるほか必要があるときは、その者の住民票を作成し、又はその属することとなつた世帯の住民票にその者に関する記載をするとともに、その者の住民票(その者が属していた世帯について世帯を単位とする住民票が作成されていた場合にあつては、その住民票の全部又は一部)の消除をしなければならない。
第12条(職権による住民票の記載等)
1 市町村長は、法第四章又は第四章の四の規定による届出に基づき住民票の記載等をすべき場合において、当該届出がないことを知つたときは、当該住民票の記載等をすべき事実を確認して、職権で、第七条から第十条までの規定による住民票の記載等をしなければならない。
1.2 住民票の職権消除がなされる場合
以下のような場合には居住実態の調査が行われ、調査に結果不在であると判断された場合には住民票が職権消除されることになります。
・市区町村の他の担当部署(税務課、国民健康保険係、高齢者福祉課など)や他の行政機関から、郵便不達や臨戸訪問等により居住が不明な人物についての情報提供があった場合
・親族、同居人、近隣の住民等、家屋の所有者又は家屋の管理人などから、不現住者である旨の申し出や通報があった場合
・転出証明書を取得してから一定期間経過後においても、転入先の市区町村から転入通知が届かない場合
・その他市区町村長が必要と認める場合
関連リンク:
・国分寺市「職権による住民票の消除の取扱に関する要綱」
・福岡県田川郡川崎町Webサイト
1.3 職権消除の効果
住民票が職権消除されると、その人には住民票上の住所がない状態となります。
その結果、住民票が職権消除された人は以下のような影響を受けます。
・行政サービス(住民票の写しの発行、印鑑登録証明書の発行など)の停止:住民であることの証明ができなくなるため、各種証明書の取得などが困難になります。
・国民健康保険や介護保険の資格喪失:被保険者資格が住民票に基づいて管理されているため、住民票が職権消除された場合には被保険者資格を喪失することとなります。
・国民年金への影響:住民票が職権消除された方は「居所未登録者」として扱われる関係で、年金が未納となったり、年金を受給できなくなるおそれがあります。
・選挙権の行使制限:住民票が職権消除された人は、選挙人名簿から抹消されるため、選挙権の行使が制限されることになります。
これらの影響についてより詳しくは、以下の記事もご参照ください。
関連記事:住民票の異動忘れで職権消除?知っておくべき影響と住所再設定の方法
1.4 住民票が職権消除された後に住所設定を行う方法
自治体によって必要書類が異なりますが、少なくとも本人確認書類は必要となります(その他に現住所を証明する資料、戸籍全部事項証明書、戸籍の附票などの提出を求められることがあります。)。
そこで、ひとまず持参の上で役所の窓口を訪ねた上、住民票が職権消除されていること及び住所設定を行いたいことをご相談いただくことをお勧めします。
本人確認書類がない場合の住所の再設定については、以下の記事もご覧ください。
関連記事:住民票の職権消除|年金・保険等への影響は?弁護士が解説
2 住民票が職権消除されている相手へ訴訟提起する方法
2.1 相手方の住所を調査する
まず、相手方の住所を調査することが考えられます。
具体的には、相手方の電話番号を知っている場合には通信事業者に対する弁護士会照会、相手方が転居した上で転居届を提出している場合には日本郵便株式会社に対する弁護士会照会を行うことが考えられます。
ただし、相手方が別の住所へ転居した事実を把握しているような場合でない限り、住所の調査は行わず、次の「2.2 公示送達」、「2.3 不在者財産管理人の選任申立て」のいずれかの手段を取るのが通常です。
関連リンク:「法令に基づく転居情報の提供について」|日本郵便株式会社Webサイト
2.2 公示送達を前提として訴訟提起
次に、相手方の住所等が不明であるとして、公示送達を前提として訴訟提起することが考えられます。
「公示送達(こうじそうたつ)」とは、相手の住所がどうしても分からない場合に、裁判所の掲示板などに所定の内容を一定期間掲示することで、法律上、相手に訴状等が届いたものとして扱う特別な送達方法です。
通常、訴訟を起こすには、相手に訴状を送達(送ること)しなければなりませんが、相手の居場所が不明では送達できません。このような場合に、訴訟手続きを進めるために公示送達の制度があります。
訴訟を提起したい相手が住民票が職権消除されている場合において、住所等や就業場所を把握していないのであれば通常は公示送達の要件(民事訴訟法110条)を充足すると考えられます。
そのため、相手の住所等がわからないまま訴訟提起するとの対応が可能です。
離婚届を自ら提出していない当事者への措置
離婚届を夫婦の一方が提出した場合や離婚届を第三者が提出した場合、離婚届けを自ら提出していない当事者に対しては転送不要郵便により離婚届の提出があった旨が書面で通知されます(戸籍法第27条の2第2項、同法施行規則第53条の3)。
2.3 不在者財産管理人の選任申立て
その他に、相手方について不在者財産管理人の選任申立てを行った上、不在者財産管理人を法定代理人として訴訟提起する方法が考えられます。
ただし、不在者財産管理人はあくまで不在者の財産管理を職務とするところ、不在者財産管理人を法定代理人として離婚裁判などの人事訴訟を提起することはできない点は注意が必要です。
※本記事では「住民票が職権消除された相手へ訴訟を起こす方法」について解説いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。
そこで、離婚届の提出についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。