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裁判で「陳述します」と言うのはなぜ? 訴状・答弁書・準備書面の「陳述」が持つ本当の意味
民事裁判の期日(口頭弁論)では、裁判官から「(訴状や準備書面の)通り陳述しますか?」と聞かれ、弁護士や当事者が「陳述します」と答えるやり取りがお決まりのように行われます。
「書面はもう裁判所に出しているのに、なぜわざわざ口頭で『陳述します』と言うの?」、 「こんな形式的なことに、どんな意味があるの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、この「陳述」という手続は、民事訴訟において非常に重要な意味を持っています。 この記事では、「陳述」がなぜ必要なのか、そして「陳述」にどのような効果があるのかについて、分かりやすく解説します。

1 「陳述」とは?なぜ必要?
「陳述」= 書面の内容を法廷で正式に「主張」する手続です
民事裁判では、たとえ事前に訴状や準備書面を裁判所に提出していても、それは法的にはまだ「準備」にすぎません。
その書面の内容を、口頭弁論という「法廷」の場で、「はい、この内容で主張します」と宣言(=陳述)して初めて、正式な「主張」として扱われ、判決の材料となるのです。
なお、「陳述」していない限り、訴訟法上は効力を生じないため、準備書面等は自由に訂正や削除等を行うことができます(大審院明治35年10月23日判決・民録8輯9号123頁)。
なぜ、そんな手続が必要なの?
民事裁判には「口頭弁論」という大原則があります(民事訴訟法87条1項)。
これは、「裁判所が判決を下すには、原則として公開の法廷で当事者の話(主張)を聞かなければならない」というルールです(必要的口頭弁論、民事訴訟法87条1項)。
さらに「弁論主義」という重要なルールもあります。
「弁論主義」というルールでは、口頭弁論が必要とされている事項については、口頭弁論において主張されていない事実に基づき判決をすることができません。
以下の場合には、手続の結果を判決の基礎とするために「陳述」が必要とされています。
・弁論準備手続の結果の陳述(民事訴訟法173条)
・裁判官交代後の従前の口頭弁論の結果の陳述(民事訴訟法249条2項)
・控訴審における第一審の口頭弁論の結果の陳述(民事訴訟法296条2項)
・受託裁判所又は裁判所外で実施された証拠調べの結果の援用(最高裁昭和28年5月12日第三小法廷判決・裁判集民9号101頁)
裁判所は、特別の定めがある場合には口頭弁論を経ずに判決できます(民事訴訟法87条3項)が、その主な例は以下のとおりです。
・訴えが不適法でその不備を補正することができない場合の訴えの却下(民事訴訟法140条)
・控訴が不適法でその不備を補正することができない場合の控訴の却下(民事訴訟法290条)
・書面審理による上告棄却(民事訴訟法319条)
・担保付提供による訴え却下(民事訴訟法78条)
・変更の判決(民事訴訟法256条2項)・請求の全部又は一部が手形訴訟による審理及び裁判をすることができないものである場合の訴えの全部又は一部の却下(民事訴訟法355条1項)
・手形訴訟の終局判決に対する異議が不適法でその不備を補正することができない場合の意義の却下(民事訴訟法359条)
・少額訴訟の終局判決に対する異議が不適法でその不備を補正することができない場合の意義の却下(民事訴訟法378条2項、359条)
2 「陳述」の2つの重要な効果
「陳述」には、主に2つの重要な法的効果があります。
効果①:裁判所が判決で考慮できる「主張」になる
これが「陳述」の最も基本的な効果です。
陳述することによって、訴状や準備書面の内容が正式に裁判資料となり、裁判所が判決を下す際に考慮すべき材料となります。
効果②:【要注意】うっかり認めると「裁判上の自白」になる
こちらが非常に重要です。
もし、「陳述」した書面(特に答弁書や準備書面)の中に、「相手方の主張する、自分に不利な事実」を認める記載があった場合、それが「裁判上の自白」(民事訴訟法179条)として成立してしまう可能性があります。
「裁判上の自白」とは?
口頭弁論期日または準備的口頭弁論期日において行う、相手方の主張する事実と一致する、自己に不利益な事実の陳述をいうとされています。
例: 相手が「100万円を貸した」と主張したのに対し、「借りたのは事実です(でも、返済期限はまだ先だ)」と書面に書き、それを「陳述」した場合、「100万円を借りた」という事実については「自白」が成立します。
いったん「自白」が成立すると、裁判所はその事実をそのまま認定しなければならず、原則として後からと撤回することもできません。
「陳述」は、書面の良い部分も悪い部分もすべて含めて「主張します」と宣言する行為です。
そのため、書面を作成する段階で、不利な事実をうっかり認めてしまわないよう、細心の注意が必要です。
3 陳述に関するその他のQ&A
Q1. もし「陳述します」と言わなかったら?
期日に欠席しない限り、訴状や準備書面を「陳述」しないということは通常は考え難いところですが、もし「陳述」しなければ、その書面の内容は法廷で「主張」されなかったことになります。
その結果、せっかく書いた主張や反論が裁判所に考慮されず、判決で不利になってしまう可能性があります。
Q2.裁判を欠席したらどうなる?
初回の期日
答弁書(訴状への反論書面)を期限までに出して欠席した場合は、法律上、その答弁書を法廷で「陳述したものとみなす」というルールがあります(民事訴訟法158条)。
なお、法的には原告が欠席した場合も訴状の陳述が擬制され得るところですが、実務上は、被告のみが出頭した場面で訴状の陳述が擬制される運用は多くはないため注意が必要です。
2回目以降の期日(地裁の場合)
この「陳述したものとみなす」ルールは、原則としてありません。
書面(準備書面)を出しただけで正当な理由なく欠席すると、その書面は「陳述」されなかったことになります。
さらに、相手方の主張する事実を認めたものと扱われる可能性があり(擬制自白)、敗訴判決を受ける危険性が高まってしまうため、期日への確実な出頭または訴訟代理人の選任が必要です。
関連記事:【危険】裁判を無視・放置して出頭しないとどうなる?
Q3.尋問手続の中での供述も「陳述」にあたる?
裁判手続では訴訟行為である「陳述」と証拠調べ手続である「供述」は明確に区別されています。
そのため、尋問の中での発言は「陳述」にはあたらず、尋問の中での発言をもって答弁書その他準備書面等の「陳述」をすることはできません(最高裁判所昭和39年1月23日第一小法廷判決・裁判集民71号193頁参照)。
※本記事では「陳述」の意義や効果について解説いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。
そこで、法律問題についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めいたします。
最高裁昭和28年5月12日第三小法廷判決・裁判集民9号101頁
「受託裁判官のした証拠調の結果は、当事者が受訴裁判所の口頭弁論においてこれを陳述することによつて始めて援用したことゝなり、裁判所の判断すべき対象となるのである。」
最高裁判所昭和39年1月23日第一小法廷判決・裁判集民71号193頁参照
「裁判上の自白は当事者の訴訟行為としての陳述でなければならないのであつて、当事者本人尋問において自己に不利益な事実が真実であると供述した場合であつても、これは自白とならないと解するを相当とする。」(最高裁判所昭和39年1月23日第一小法廷判決・裁判集民71号193頁)
民事訴訟法第87条(口頭弁論の必要性)
1 当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。ただし、決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。
2 前項ただし書の規定により口頭弁論をしない場合には、裁判所は、当事者を審尋することができる。
3 前二項の規定は、特別の定めがある場合には、適用しない。
民事訴訟法第173条(弁論準備手続の結果の陳述)
当事者は、口頭弁論において、弁論準備手続の結果を陳述しなければならない。
民事訴訟法第161条(準備書面)
1 口頭弁論は、書面で準備しなければならない。
2 準備書面には、次に掲げる事項を記載する。
一 攻撃又は防御の方法
二 相手方の請求及び攻撃又は防御の方法に対する陳述
3 相手方が在廷していない口頭弁論においては、準備書面(相手方に送達されたもの又は相手方からその準備書面を受領した旨を記載した書面が提出されたものに限る。)に記載した事実でなければ、主張することができない。
民事訴訟法第140条(口頭弁論を経ない訴えの却下)
訴えが不適法でその不備を補正することができないときは、裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、訴えを却下することができる。
民事訴訟法第290条(口頭弁論を経ない控訴の却下)
控訴が不適法でその不備を補正することができないときは、控訴裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、控訴を却下することができる。
民事訴訟法第319条(口頭弁論を経ない上告の棄却)
上告裁判所は、上告状、上告理由書、答弁書その他の書類により、上告を理由がないと認めるときは、口頭弁論を経ないで、判決で、上告を棄却することができる。
民事訴訟法第78条(担保不提供の効果)
原告が担保を立てるべき期間内にこれを立てないときは、裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、訴えを却下することができる。ただし、判決前に担保を立てたときは、この限りでない。
民事訴訟法第256条(変更の判決)
1 裁判所は、判決に法令の違反があることを発見したときは、その言渡し後一週間以内に限り、変更の判決をすることができる。ただし、判決が確定したとき、又は判決を変更するため事件につき更に弁論をする必要があるときは、この限りでない。
2 変更の判決は、口頭弁論を経ないでする。
3 前項の判決の言渡期日の呼出しにおいては、公示送達による場合を除き、送達をすべき場所にあてて呼出状を発した時に、送達があったものとみなす。
民事訴訟法第355条(口頭弁論を経ない訴えの却下)
1 請求の全部又は一部が手形訴訟による審理及び裁判をすることができないものであるときは、裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、訴えの全部又は一部を却下することができる。
2 前項の場合において、原告が判決書の送達を受けた日から二週間以内に同項の請求について通常の手続により訴えを提起したときは、第百四十七条の規定の適用については、その訴えの提起は、前の訴えの提起の時にしたものとみなす。
民事訴訟法第359条(口頭弁論を経ない異議の却下)
異議が不適法でその不備を補正することができないときは、裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、異議を却下することができる。
民事訴訟法第378条(異議)
1 少額訴訟の終局判決に対しては、判決書又は第二百五十四条第二項(第三百七十四条第二項において準用する場合を含む。)の調書の送達を受けた日から二週間の不変期間内に、その判決をした裁判所に異議を申し立てることができる。ただし、その期間前に申し立てた異議の効力を妨げない。
2 第三百五十八条から第三百六十条までの規定は、前項の異議について準用する。


