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「疎明」とは?「証明」との違いや「疎明」に利用できる証拠方法について弁護士が解説
「疎明」という言葉で、お困りではありませんか?
・「裁判手続の中で『疎明』という言葉が出てきたが、その意味が分からない」
・「『証明』とは何が違うのか?」
・「疎明にはどんな証拠を利用できるのか?」
このような疑問をお持ちではないでしょうか。
「疎明」は、迅速な判断が求められる民事保全などの手続において重要なポイントとなります。
この記事では、「疎明」の基本的な意味から、「疎明」で利用できる証拠まで、弁護士が分かりやすく解説します。

1 「疎明」とは?
民事訴訟その他の裁判手続では、原則として「疎明」ではなく、「証明」が要求されます。
民事訴訟における「証明」とは、「通常人が疑を差し挾まない程度に真実性の確信を持ちうる」、「高度の蓋然性」が認められる状態をいうとされています(最高裁昭和50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁)。
一方、「疎明」は、「裁判官が事実の存否について確信の程度には至らないものの一応確からしいとの推測を得た状態または裁判官にこの推測を得させようとして証拠を提出する当事者の行為をいう」(秋山幹夫・伊藤眞ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅳ〔第2版〕』144頁)とされています。
そのため、「疎明」は「証明」よりも事実認定の基準が緩和されているといえます。
なお、「疎明」についても、「証明」と同様に裁判所の自由な心証によることになります(民事訴訟法247条)。
民事訴訟法247条
裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。
2 疎明で足りる場合
上記1のとおり、裁判手続では原則として「証明」が要求されていますが、「疎明」で足りる旨の規定がある場合には「証明」までは必要ありません。
「疎明」で足りるとされる場合には、迅速に判断を行う必要がある場合、手続の遅延を防止する目的の場合、濫用的な申立てを防止する目的の場合などがあります。
具体的には、主に以下の場合には「疎明」で足りるとされています。
・特別代理人の選任申立て(民事訴訟法35条1項)
・補助参加人の参加理由(民事訴訟法44条1項)
・訴訟記録の閲覧等請求を行う際の利害関係(民事訴訟法91条2項ないし4項)
・秘密保護のための閲覧等の制限を申し立てる際の閲覧等を制限すべき事由(民事訴訟法91条1項)
・審理の計画が定められている場合における、当事者が定められた期間内に攻撃または防御の方法を提出することができなかったことについての相当の理由(民事訴訟法157条の2)
・証言拒絶の理由(民事訴訟法198条)
・執行停止の裁判における執行停止等を行うべき事由(民事訴訟法403条1項各号)
・除斥または忌避申立ての原因(民事訴訟法23条2項、民事訴訟規則10条3項)
・訴訟費用又は和解の費用の負担の額を定める処分を求める際の費用額(民事訴訟法71条1項、72条、73条1項、民事訴訟規則24条2項、25条、27条)
・訴訟上の救助の事由(民事訴訟法82条、民事訴訟規則30条2項)
・判決確定証明書を請求する際の利害関係(民事訴訟規則48条1項)
・訴えの提起前における証拠収集の処分の申立てを行う場合における、証拠となるべきものを自ら収集することが困難である事由(民事訴訟法132条の4、民事訴訟規則152条の5第6項) ・鑑定人に対する忌避申立ての原因(民事訴訟法214条、民事訴訟規則130条2項)
・保全命令の申立てを行う場合における、保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性(民事保全法13条2項)
・保全執行の停止の裁判における、申立てに係る事由(民事保全法27条1項)
・事情変更または特別の事情を理由とする保全命令の取消申立ての場合における、事情の変更または特別の事情(民事保全法38条2項、39条2項)
・保全命令を取り消す決定の効力停止の裁判の申立てを行う場合における、申立てに係る事由(民事保全法42条1項)
・執行文付与に対する異議の訴え等に係執行停止の申立てを行う場合における異議のため主張した事情(民事執行法36条1項)
・船舶執行の申立て前の船舶国籍証書等の引渡命令を申し立てる場合における、申立てに係る事由(民事執行法115条3項)
・財産開示手続の申立てを行う場合における、申立てに係る事由(民事執行法197条1項、2項)
・特別代理人の選任(家事事件手続法19条1項、2項)
・記録の閲覧等を請求する場合における、第三者の利害関係(家事事件手続法47条、254条)
・再審の申立てにおける、不服の理由として主張した事情及び執行により償うことができない損害が生じるおそれがあること(家事事件手続法104条1項)
・審判前の保全処分の申立てにおける、保全処分を求める事由(家事事件手続法106条2項)
・審判前の保全処分(家事事件手続法109条1項)
・即時抗告に伴う執行停止の申立てにおける、原審判の取消しの原因となることが明らかな事情及び原審判の執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあること(家事事件手続法111条1項)
・特別代理人の選任(非訟事件手続法17条2項)
・記録の閲覧等を請求する場合における、第三者の利害関係(非訟事件手続法32条)
・再審の申立てにおける、不服の理由として主張した事情及び執行により償うことができない損害が生じるおそれがあること(非訟事件手続法84条)
・民法264条の3第2項(所有者不明土地管理人の権限外行為)又は264条の6第2項(所有者不明土地管理人の辞任)の許可の申立てをする場合における、その許可を求める理由(非訟事件手続法90条3項)
・民法264条の10第2項(管理不全土地管理人の権限外行為)又は第64条の12第2項(管理不全土地管理人の辞任)の許可の申立てをする場合における、その許可を求める理由(非訟事件手続法91条2項)
・有価証券無効宣言公示催告の申立てにおける、有価証券の盗難、紛失又は滅失の事実その他114条の規定により申立てをすることができる理由(非訟事件手続法116条)
・執行停止の決定(行政事件訴訟法25条5項)
・支障部分の閲覧等の制限を申し立てる場合の支障部分(破産法12条1項)
・債権者が破産手続開始の申立てをする場合における、有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実(破産法18条1項)
・法人の破産手続開始申立てを行う場合における、破産手続開始の原因となる事実(破産法19条3項)
・否認の請求をする場合における、その原因となる事実(破産法174条1項)
・役員の責任の査定の申立てを行う場合における、その原因となる事実(破産法178条2項)
・別除権者が中間配当の手続に参加する場合における、別除権の目的である財産の処分与よって弁済を受けることができない債権の額(破産法210条1項)
・別除権者が中間配当において受けることができた額について、最後配当又はその中間配当の後に行われることがある中間配当において他の同順位の破産債権者に先立って配当を受けようとする場合における、別除権の目的である財産の処分与よって弁済を受けることができない債権の額(破産法213条)
・相続財産について破産手続開始の申立てを行う場合における、破産手続開始の原因となる事実等(破産法224条2項)
・信託財産について破産手続開始の申立てを行う場合における、破産手続開始の原因となる事実等(破産法244条の4)
・外国管財人が債務者について破産手続開始の申立てを行う場合における、破産手続開始の原因となる事実(破産法246条2項)
・支障部分の閲覧等の制限を申し立てる場合の支障部分(民事再生法17条1項)
・再生手続開始の申立てを行う場合における、再生手続開始の原因となる事実(民事再生法23条1項)
・債権者が再生手続開始の申立てを行う場合における、その有する債権の存在(民事再生法23条2項)
・否認の請求をする場合における、その原因となる事実(民事再生法136条1項)
・損害賠償請求権の査定の申立てを行う場合における、その原因となる事実(民事再生法143条3項)
・議決権を有しなかった再生債権者が再生計画認可又は不認可の決定に対し即時抗告をする場合における、再生債権者である事実(民事再生法175条3項)
・債権届出期間の経過後再生計画認可の決定の確定前において、法21条1項の再生手続開始の申立ての事由のないことが明らかになった場合における。再生手続は意思の原因となる事実(民事再生法192条1項)
3 疎明で利用できる「証拠方法」
「疎明は、即時に取り調べることができる証拠によってしなければならない。」とされている(民事訴訟法188条)ところ、疎明の際に利用できる証拠方法には制限があります。
疎明に利用できる証拠方法と利用できない証拠方法は以下のとおりです。
【疎明に利用できる証拠方法】
・文書
・準文書(図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないもの。民事訴訟法231条参照)
・在廷証人の尋問(口頭弁論期日または審尋期日を開く場合のみ)
・在廷する参考人等の審尋(民事訴訟法187条1項、口頭弁論期日または審尋期日を開く場合のみ)
・検証物(口頭弁論期日または審尋期日を開く場合のみ)
【疎明に利用できない証拠方法】
・調査嘱託(民事訴訟法186条)
・文書送付嘱託(民事訴訟法226条)
・文書提出命令(民事訴訟法223条)
・在廷証人等以外の尋問、在廷する参考人等以外の審尋
・裁判所外における証拠調べ(民事訴訟法185条)
民事訴訟法以外ではどうなる?
民事保全法については同7条により民事訴訟法188条が準用されており、民事執行法については同法20条により民事執行法188条が準用されています。
また、行政事件訴訟法については、同法7条により民事訴訟法188条が準用されます。
その他に、家事事件手続法では同法57条に民事訴訟法188条と同内容の規定があり、非事件手続法では同法50条に民事訴訟法188条と同内容の規定があります。
※本記事では「疎明」の意義や疎明の場合に可能な証拠方法について解説いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。
そこで、法律問題についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。