被相続人が未受領の満期保険金は遺産分割の対象財産になる?

遺産分割に関するQ&A

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被相続人が未受領の満期保険金は遺産分割の対象財産になる?

Question

生前、父が加入していた保険が満期となっていたのですが、父は満期保険金を受領しないまま亡くなってしまいました。

父の満期保険金は遺産分割の対象財産となりますか? それとも可分債権として相続開始と同時に当然に分割されますか?

Answer

現在までの裁判例等を前提にすると、満期保険金は、可分債権であたるため原則として相続発生と同時に当然分割され、相続人間の合意がない限り遺産分割の対象とはならないと考えられます。
もっとも、預貯金債権が判例変更により遺産分割の対象財産とされたことを踏まえ、今後、満期保険金についても同様の判決が出る可能性が無いわけではありません。

満期保険金については、その他に死亡保険金とは異なり相続放棄した場合には相続には受け取ることができない点及び消滅時効が請求できる時から3年とされている点に注意が必要です。


満期保険金と遺産分割の関係について、より詳しくお知りになりたい方は以下をご覧ください。

1 満期保険金と死亡保険金の違い

満期保険金は、保険契約の保険期間が満了した場合に保険契約者が受け取ることができる保険金です。
したがって、被相続人が保険契約者となっていた場合、相続発生時に未受領の満期保険金は被相続人の財産として相続の対象となります。

一方、生命保険の死亡保険金は、被保険者が死亡した場合に受取人が受け取ることができる保険金です。
死亡保険金は、受取人の固有財産であり被相続人の財産ではないため、相続の対象にはなりません。

最三小判昭和40年2月2日民集19巻1号1頁
「保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわねばならない。」

2 満期保険金は遺産分割の対象となる?

2.1 可分債権と遺産分割

貸金の返還請求権や賃料の請求権などの金銭債権は、「債権の目的が性質上不可分」(民法428条)ではなく可分債権にあたるため、相続開始と同時に当然分割される結果、遺産分割の対象財産とはなりません(民法427条、最一小判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)。

最一小判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁
「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする」

2.2 満期保険金は遺産分割の対象財産か?

満期保険金は、金銭債権であり可分債権であるところ、上記昭和29年判例を前提にすると満期保険金も相続発生と同時に当然分割されると考えられます。

実際、かんぽ生命の満期保険金が可分債権として遺産分割の対象とならないことを前提に、相続人の一部から日本郵政公社(現・株式会社ゆうちょ銀行)に対する満期保険金の請求を認めた裁判例(東京地判平成18年9月29日(平成18年(ワ)第10444号))も存在します。

もっとも、金銭債権である預貯金債権について、最高裁判所は従前の判例を変更して遺産分割の対象財産性を認めるに至ったこと(最二小判平成22年10月8日民集64巻7号1719頁、最大決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁、最一小判平成29年4月6日州民255号129頁)を受け、満期保険金についても遺産分割の対象財産とすべきとの考え方も出てきています(片岡武・管野眞一編『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』191頁参照)。

そのため、将来的に裁判所が、満期保険金が遺産分割の対象財産であるとの判断を行う可能性は考えられるところですが、少なくとも現時点では満期保険金は遺産分割の対象とはならず、相続発生と同時に当然分割されると考えられます。

東京地判平成18年9月29日(平成18年(ワ)第10444号))
「被告は、簡易生命保険法36条1項を根拠として、原告らの満期保険金及び配当金の各支払請求を拒んでいるが、簡易生命保険の満期保険金及び配当金の各請求権は金銭債権であり遺産分割の対象とはならないから、仮に、相続人らの間で代表者選定の話合いがつかない限り請求することができないとすると、永遠に請求できない事態が発生することがあり得ることは明らかである。したがって、法は不可能を強いるものではないというべきであるから、簡易生命保険法36条1項は、何らかの客観的な事情により代表者を定めることが不可能であるという場合に限らず、当事者間の話合いで代表者を定めることができないことが明らかである場合にも、各保険金受取人からの個別的な請求を排除するものではないと解するのが相当である。」

2.3 相続人間で合意した場合

満期保険金は、可分債権であることを理由に遺産分割の対象財産にならないとしても、被相続人の遺産に含まれることは間違いはないため、相続人間で合意できる場合にはこれを遺産分割の対象とすることは可能です。

3 満期保険金に関するその他の問題

3.1 相続放棄との関係

生命保険の死亡保険金は、被相続人が受取人に指定されていない限り受取人固有の財産となるため、法定相続人は相続放棄した場合でも死亡保険金を受け取ることができます(なお、被相続人が受取人に指定されている場合でも、保険契約の約款次第では法定相続人が保険金の受取人となり、法定相続人固有の財産となる場合があります。)

一方、被相続人が未受領であった満期保険金は被相続人の財産であるため、相続放棄をすると法定相続人は満期保険金を受け取れないことになります。

3.2 満期保険金の消滅時効

満期保険金は、通常、請求できる時から3年間行使しないときは時効により消滅します(保険法95条。かんぽ生命については、約款上、時効が5年とされています。)。

実際には、時効が完成している場合でも請求に応じる保険会社もあります(かんぽ生命の取扱いついてはこちらをご参照ください。)が、法律上は請求できなくなる可能性がありますので、被相続人の財産に満期保険金が含まれる場合には早めに保険金の請求を行うことが重要です。


※本記事では相続問題における満期保険金の取扱に関するポイントをご紹介いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。

そこで、相続問題についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。