遺産分割に関する事例
遺産分割に関する事例
財産調査、調停、分割後の相続手続を全て弁護士に任せたUさんの事例
ご相談者Uさん
当事者:相続手続を全て任せたい
性別:男性
職業:無職
相手職業:無職
解決方法:調停
※案件や依頼者様の特定ができないように内容を編集しております。
状況
Uさんの伯母には子供等がいなかったため、伯母の相続発生後にUさんは伯母の代襲相続人となりました。
Uさんの他にも相続人は何人かいたのですが、1名を除きUさんは相続分の譲渡を受けることができました。
しかし、Uさんとしては、①残り1名の相続人とは連絡が全く取れずどのように対応すればよいかわからない、②伯母の財産状況はある程度分かっていたものの全体像が不明であったため、相続財産及び相続債務の調査を行いたいが調査すべき対象や方法が分からない、③Uさんは高齢なため、遠方に居住していた伯母の預貯金口座や証券口座の解約など各種相続手続を行うことは難しい、という3点について問題を抱えていました。
そこで、Uさんは、財産調査、他の相続人との間の遺産分割、遺産分割後の各種相続手続についてすべて当事務所の弁護士にご依頼されました。
弁護士の活動
1 相続財産・相続債務の調査
(1)相続財産の調査
Uさんは生前の伯母とはほとんど交流がなく、伯母の財産状況についても分からない状況でした。
そこで、まず弁護士は伯母の過去の住所を可能な限り調べました。
そして、判明した伯母の過去の住所を基に、伯母が居住したことがある地域の役所へ名寄帳の請求を行い、金融機関に対しては預貯金口座の有無及び取引履歴の照会を行いました。
また、ほふり(株式会社証券保管振替機構)へ情報開示請求を行った上、ほふりからの回答結果及び預貯金口座の取引履歴の内容を踏まえ、証券口座が開設されていると考えられる証券会社へ證券口座の照会を行いました。
加えて、主要な生命保険会社に対しては保険契約の有無及び内容の照会を行いました。
このような網羅的に調査により、Uさんの伯母の財産の全体像が判明しました。
(2)相続債務の調査
相続債務については、Uさんの伯母の自宅に届いていた各種請求書や預貯金口座の取引履歴などから相続債務の存在を推測し、債権者と思われる企業等に対し照会書を送付しました。
その結果、相続債務の全体像についても判明しました。
2 遺産分割調停
相続財産と相続債務の調査終了後、残り1名の相続人に対する遺産分割調停の申立てを行いました。
その際、遺産分割後の相続手続をできる限りスムーズに進めるため、調停申立書の中に「Uさんがすべての遺産を単独で取得し、残り1名の相続人に対しては遺産評価額に法定相続分を乗じた金額を代償金として支払う。」との解決を希望する旨の記載を行いました。
残り1名の相続人は初回の調停期日に出頭しなかったところ、弁護士は裁判所に対し「次回期日にも出頭しなかった場合には、調停申立書に記載の内容(Uさんがすべての遺産を単独取得し、残り1名の相続人へ代償金を支払う。)の調停に代わる審判を出して欲しい。」との希望を出しました。
その後、残り1名の相続人は2回目の調停期日にも出頭しなかったのですが、2回目の調停期日の後に裁判所から調停申立書に記載の内容の調停に代わる審判がなされ、一定期間経過後にこれが確定しました。
なお、残り1名の相続人はそれまで何ら連絡が取れず、裁判所にも出頭しなかったため代償金を供託する準備をしていました。もっとも、最終的には残り1名の相続人とも連絡が取れ、代償金の支払先口座を聴取することができたため、供託手続までは行わないこととなりました。
3 各種相続手続
遺産分割が完了後、弁護士は預貯金口座全ての解約、株式や投資信託などの移管、不動産の名義変更及び売却仲介依頼、債権者との調整及び債務の支払を行いました。
その結果、Uさんは家の近くの金融機関に行って当該金融機関の系列証券会社の証券口座を開設した以外には何も行うことなく各種相続手続を完了させることができました。
ポイント
1 相続財産・相続債務の調査
相続財産、相続債務の調査を行うか否か、行う場合には調査範囲をどのように設定するかは、相続人と被相続人の関係性等を踏まえ個別具体的に検討する必要があります。
具体的には、相続発生時に相続人が被相続人と同居して生活しており、相続人が被相続人の財産状況をすべて把握していたような場合には調査自体が不要である可能性が高いといえます。
一方、相続人が被相続人と同居して生活していなかったものの相続人と被相続人に交流があり相続人が被相続人の財産状況をある程度把握していたという場合は調査不要か限定的な調査で済む可能性がありますが、相続人と被相続人に交流がなく財産状況も全く分からないという場合には網羅的な調査を行う必要がある可能性があります。
今回のケースでは、Uさんの伯母には不動産、有価証券、預貯金などの遺産が存在することが窺われたものの、Uさんと伯母の間に交流はあまりなかったため正確な遺産の内容が不明な状況でした。
伯母にほとんど財産がないという場合には財産調査を行う実益はない可能性もありましたが、伯母に一定の財産があるものの財産状況が不明という状況であったため財産調査を行わない場合には一定のまとまった財産を漏らしたまま遺産分割を行うことになりかねませんでした。
そこで、今回のケースでは遺産分割を行う前にかなり網羅的に調査を行うこととしました。
必要に応じて熟慮期間の伸長を申し立てる
被相続人の遺産の調査には一定の時間を要します。
そのため、プラスの財産がマイナスの財産を上回ることが確実な場合には特段の手続は必要ありませんが、マイナスの財産がプラスの財産を上回る可能性がある場合には相続の承認又は放棄をすべき期間(熟慮期間)の伸長の申立てを行うことを検討する必要があります。
相続債務の調査を行う場合の注意点
相続財産の調査を行う場合、場合によっては相続放棄や債務整理(すでに相続放棄できなくなっている場合)が視野に入っていることが少なくありません。
その場合でも、相続債務の調査を行う際には時効の更新事由である権利の承認を行う趣旨ではないこと及び債務整理の通知ではないことは念のために通知しておくことが推奨されます。
2 遺産分割の方法と調停に代わる審判の利用
遺産分割の方法としては、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の順に優先されます。
そのため、Uさんが遺産を全て取得した上で残り1名の相続人に対し代償金を支払うとの解決を行うためには、現物分割より代償分割を行うべき理由があること、すなわち残り1名の相続人も代償分割を希望していることが必要です。
しかし、今回のケースは残り1名の相続人は調停期日に出頭せずその意向が明らかではなかったため、調停が不成立となり裁判所が審判を行う場合には代償分割による解決は難しいといえました。
そこで、弁護士が調停に代わる審判(家事事件手続法第284条)による解決を希望したところ、代償分割を内容とする調停に代わる審判が出され、これが確定したことにより代償分割による遺産分割が可能となりました。
3 各種相続手続(預貯金口座の解約、有価証券の移管、不動産の名義変更及び売買仲介依頼、各債権者への支払)
遺産分割協議や遺産分割調停の成立、遺産分割審判の確定があった場合、各種相続手続を行わなければ実際に遺産が自身のものになるわけではありません。
しかし、被相続人が預貯金口座を持っていた金融機関が遠方にある場合や被相続人は有価証券を保有していた場合、不動産の名義変更や売却等が必要な場合には、一般の方には手続が容易ではなないことがあります。
今回のケースでは、調停に代わる審判が確定した後に、県外の複数の金融機関に開設された預貯金口座の解約、有価証券の移管手続、不動産の名義変更及び売買仲介の依頼、各債権者との調整及び支払が必要でした。
このような場合に弁護士に相続手続を委任することで、金融機関に行ったり証券会社へ問い合わせを行うなどの必要がなくなるメリットがあります。
※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例となります。