一部の相続人から相続分の譲渡を受けた上で遺産分割を行ったOさんの事例

遺産分割に関する事例

遺産分割に関する事例

一部の相続人から相続分の譲渡を受けた上で遺産分割を行ったOさんの事例

ご相談者Oさん

当事者:遺産分割を申し入れた
性別:女性
職業:無職

解決方法:協議

※案件や依頼者様の特定ができないように内容を編集しております。

状況

Oさんの弟は、数十年前に妻と離婚した後、自身の子供たちとは全く交流がありませんでした。
そのため、Oさんの弟が亡くなった後の葬儀等にも子供たちは参列せず、葬儀やその他のすべての手続はOさんがこれを執り行うこととなりました。

その後、Oさんの子供たちはOさんの相続について相続放棄を行ったため、Oさん、Oさんの甥姪が相続人となりました。

弟の遺産としては預貯金が少しあるのみだったのですが、弟の法事費用等を負担し続けているOさんとしては、弟の預貯金の遺産分割を行った上で、その預貯金から法事費用等を捻出したいと考えていました。
しかし、Oさんの姪の中に異母きょうだいの子供がいたこともあり、Oさん自身が遺産分割の話合いを進めて行くことは困難でした。

そこで、Oさんは当事務所の弁護士に甥姪との遺産分割協議等についてご依頼されました。

弁護士の活動

弟の遺産である預貯金は僅少な額である一方、Oさんは弟の葬儀や法事等のために一定の金銭的負担をすでにしていました。
そこで、弁護士は、まずOさんの甥姪に対し、弟の遺産の内容やOさんが葬儀等を執り行ったこと、今後もOさんが法事等のために費用を支出しなければならないことなどを説明した上、相続分の譲渡を依頼しました。

これに対し、Oさんと父母が同じきょうだいの子供は相続分の譲渡に応じてくれたのですが、Oさんとは母親が異なるきょうだいの子供は相続分の主張を行ってきました。

そこで、異母きょうだいの子供との間では、「Oさんがすべての遺産を取得した上、異母きょうだいの子供に対しては弟の預貯金から各種経費を控除した残額の5分の1(法定相続分相当)を渡す。」との内容で遺産分割を成立させました。

ポイント

1 どのような解決を目指すか

法律上、相続人ごとに法定相続分が決められています。
そのため、遺産の中に不動産などが含まれない場合には、遺産を法定相続分どおりに形式的に分けてしまうことも考えられます。

しかし、生前の関与度合いや死後事務への対応等に照らし、遺産を法定相続分どおりに分けるのが必ずしも公平、適切ではない場合がありますが、特別受益や寄与分などを主張したとしても解決できない場合が少なくありません。
そこで、目指すべき解決を検討する際には法的見通しを踏まえつつも、実質的な観点から公平、適切と考えられる解決も模索する必要があります。

今回のケースでは、Oさんは弟の葬儀費用やその後の法事の費用等などで少なくない金額の負担を強いられたにもかかわらず、相続人間で預貯金を法定相続分どおりに分けるという解決を行うと実質的には不適切、不公平とも考えられました。
そこで、ひとまずは相続分の譲渡を受けることを目指した結果、父母を同じくするきょうだいからは相続分の譲渡を受けることができOさんの相続分は5分の4に増えました。

2 相続分譲渡

(1)相続分譲渡とは?
「相続分の譲渡とは、積極財産と消極財産とを包含した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分(包括的持分)の移転をいう」(東京地判平成27年9月4日(平成27年(レ)第45号))とされています。

(2)相続分譲渡の効果
遺産分割は相続人全員で行わなければ無効となります。
そのため、一部の相続人との間では条件の合意ができる場合でも、相続人全員で合意できる状態とならない限り遺産分割協議を成立させることはできません。

しかし、一部の相続人が自身が相続すべき財産を別の相続人に譲る意向を持っている場合には、当該意向を持っている相続人が協議すべき事項等はとくに残されていません。
そこで、このような場合には遺産分割協議を成立させる前に相続分の譲渡を行っておくことが考えられます。

相続分の譲渡により相続分の譲渡人は遺産に対する割合的持分を失うため、遺産分割の当事者となる必要がなくなります。
その結果、相続分を譲渡した相続人はその後の遺産分割等の手続に関与する必要がなく、その他の相続人のみで遺産分割を成立させることが可能となります。

3 異母きょうだい、異父きょうだいの相続分

父母の一方を同じくするきょうだい(異母きょうだいや異父きょうだい)は、父母の双方を同じくするきょうだいの相続分の2分の1です(民法第900条第4号ただし書)。

異母きょうだいや異父きょうだいについて、父母の双方を同じくするきょうだいと相続分が同じだと誤解されている方が少なくありませんので、この点は注意が必要です。


※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例となります。