法定相続分を超える遺産を取得できたJさんの事例

遺産分割に関する事例

遺産分割に関する事例

法定相続分を超える遺産を取得できたJさんの事例

ご相談者Jさん

当事者:遺産分割を申し入れた
性別:女性
職業:無職

相手職業:自営業
解決方法:調停

※案件や依頼者様の特定ができないように内容を編集しております。

状況

Jさんは、母の四十九日が終わった後、もう一人の相続人である兄に対し遺産分割についての話を持ち掛けたのですが、兄は「嫁に出たお前に渡す遺産はない。」として遺産分割を拒否してきました。

兄と円満に話合いを進めたかったJさんは、兄が話合いに応じてくれるのをずっと待っていたのですが、約1年半が経過しても兄は何ら話合いに応じてくれませんでした。

そこで、困り果てたJさんは、母の遺産の調査や遺産分割について、当事務所の弁護士にご依頼されました。

弁護士の活動

1 遺産分割協議の申入れ

まず、弁護士は、兄に対し、遺産分割協議を申し入れるとともに母の遺産に関する一切の資料の開示を求めました。
当初、兄は一切資料の開示に応じない状況だったのですが、粘り強く交渉した結果、母名義の財産資料が開示されました。

開示された財産資料をJさんに確認してもらったところ、Jさんが把握している母の財産には漏れがない状況であったことから、別途遺産の調査までは行わないことになりました。

その後、Jさんが希望する遺産分割(母の遺産のうち不動産をJさんが取得した上、双方が取得する財産が平等になるよう預貯金を分ける。)との内容の遺産分割案を兄に提案したのですが、兄は話合い自体を拒否し続けました。

2 遺産分割調停の申立て

兄が遺産分割協議を行うこと自体を拒否し続けたことを受け、Jさんと相談の上、遺産分割調停に移行することとしました。

調停手続の中では、兄が初めて遺産分割に関する意見を述べてきたのですが、兄は母の遺産のうち不動産は絶対に自身が取得したいとの希望を表明しました。

これに対し、Jさんも思い出のある不動産を取得したいとの希望を有していたのですが、最終的には不動産以外の財産をより多く取得することを目標とすることにしました。
その結果、Jさんは不動産以外の遺産(評価額ベースで遺産の約3分の2)を取得するとの内容で調停を成立させることができました。

ポイント

1 遺産を調査するか否かの判断

遺産分割を行う場合、その前提としてどのような遺産があり、存在する遺産はどのような価値があるかをきちんと把握しておく必要があります。

そのため、一番厳密に遺産の内容や価値を把握しようとすれば、亡くなった方名義の預貯金、不動産、各種保険、有価証券などを各会社へ照会するなどして調査した上、不動産などについては不動産鑑定を行うことになります。
もっとも、このような調査等には時間も費用も掛かることからすべてのケースについて調査等を行うことは現実ではなく、調査の必要性を適切に判断するというのが重要です。

今回のケースでは、生前にJさんと母の間に十分な交流があり、Jさんも母の財産をおおよそ把握している状況でした。
そのため、兄から開示された資料以外には母の財産は存在しないと確信することができ、遺産の調査までは行わないとの判断に至りました。

2 遺産分割の方法

(1)一般的な遺産分割の方法の優先順位
遺産分割の方法には以下の4種類があります。

遺産分割の4種類の方法
現物分割:形状や性質を変更せずに現状のまま分割する方法
代償分割:一部の相続人に法定相続分を超える額の財産を取得させた上、他の相続人に対する債務を負担させる分割方法
換価分割:遺産を売却等で換金後に、売却代金等を分配する分割方法
共有分割:遺産の一部または全部を共有取得する分割方法


上記4種類の方法のうちどの方法を取るかについては、一般的には以下の順番にしたがって検討されることになります(大阪高決平成14年6月5日家月54巻11号60頁)。

①現物分割(原則的な分割方法)
②代償分割
③換価分割
④共有分割

(2)特定の不動産を現物分割しようとする場合
上記のとおり、遺産分割の方法として最初に検討すべき方法は「現物分割」です。
遺産の中に不動産が含まれる場合でも、特定の不動産を相続人が単独で取得し、その他の相続人は別の不動産や預貯金等を取得するという内容の現物分割を行うことが考えられます。

しかし、特定の不動産を複数の相続人で現物分割しようとする場合、土地であれば測量等を行った上で分筆することが必要になり、建物であれば区分所有とする必要があることから、相続人全員が協力できない限り「現物分割」をできないことになります。

そのため、少なくとも特定の不動産(一筆の土地、一棟の建物)の遺産分割に関しては、「現物分割」は相続人が合意し協力できる場合に限り取り得る方法であり、通常は代償分割や換価分割が優先されることになります。

(3)見通しを踏まえた対応
今回のケースでは、Jさんと兄のいずれも不動産の取得を希望したとすると、不動産を日常的に使用していた兄が優先される可能性がありました。
上記見通しを基にJさんと対応を検討したところ、Jさんは不動産以外の財産をより多く取得することを優先することとし、不動産の取得を断念しました。

その後、兄との話合いを続けた結果、Jさんは最終的には不動産以外の全ての遺産(評価額の約3分2を取得)を取得することができました。


※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例となります。