状況
Pさんの父は、消費者金融から借り入れた数百万円の借金を残して亡くなりました。
生前、父はずっと消費者金融からの借入金を弁済していた様子で、財産もほとんどない状況でした。
そこで、Pさんときょうだいは相続放棄を考えましたが、父の相続が発生してすでに約2か月が経過しており、期限内に相続放棄を行うことができるか不安になったため、当事務所の弁護士に相続放棄をご依頼されました。
弁護士の活動
1 方針の決定
弁護士がPさんらに確認したところ、父は消費者金融から平成10年代から借り入れを行った上で相続発生時まで返済を続けていたと思われるものの、詳しい借入れの状況や経過まではわからないとのことでした。
平成10年代に消費者金融から借り入れた債務であれば過払金が発生している可能性があります。
そこで、Pさんきょうだいと相談の上、まずは①過払金返還請求権の有無や請求可能額、債務の額を調査し、②債務超過となっている場合には相続放棄を行う一方、請求可能な過払金の額が債務の額を大きく上回る場合には父の財産を相続するとの方針を取ることにしました。
2 熟慮期間の伸長申立て
今回のケースでは弁護士にご依頼いただいた際にすでに相続発生から約2か月が経っていました。
父の債務や過払金返還請求権の有無などの財産調査を行うには一定の時間が必要ですが、上記調査を行っている間に相続発生から3か月が経過してしまい相続放棄をできなくなる可能性がありました。
そこで、弁護士は、債務や過払金返還請求権の有無などの相続財産調査を行う前に、家庭裁判所に相続の承認又は放棄の期間伸長(熟慮期間の伸長)の審判申立てを行いました。
その結果、熟慮期間が3か月延長されることになり、余裕をもって相続財産の調査を行うことができるようになりました。
3 相続財産の調査とその後の手続
相続財産の調査を行った結果、父には過払金返還請求権がなく数百万円の債務超過であったことが判明しました。
そこで、延長された熟慮期間内に、家庭裁判所に対しPさんきょうだいの相続放棄申述を行いました。
ポイント
1 過払金の有無の調査
相続放棄を行いたいと考える理由には様々な理由がありますが、被相続人が債務超過であることが判明している又はその疑いが強いというのが理由となっている場合には、被相続人が本当に債務超過であったか否かについては検討する必要があります。
具体的には被相続人のプラスの財産をほとんど把握できていないという場合や被相続人が消費者金融から長年にわたり借金をしていた場合などには、相続財産の調査をしてみると被相続人は実際には債務超過ではなかったということがあります。
今回のケースでは、平成10年代から消費者金融から借り入れをしていた可能性がある事案であったため、過払い金の返還請求を行うことができる可能性がありました。
調査の結果、過払金返還請求権が存在しないことが判明したのですが、過払金返還請求権が存在する事案では被相続人の財産が数百万円のプラスとなっていることもあるため、相続財産の調査の要否については慎重に判断することが推奨されます。
過払金返還請求権とは?
過払金返還請求権は、いわゆるグレーゾーン金利(利息制限法第1条を超える利率であり、かつ出資法第5条第2項の利率を超えない利率)で金銭を借り入れていた場合に、利息制限法の制限を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると、過払金が発生していることがあり、その場合には過払金の返還請求を行うことができる可能性があります。
利息制限法及び出資法は平成18年12月20日に法律が改正され(平成18年法第115号)、平成22年6月18日に改正法が施行されたところ、平成22年6月17日以前の取引については過払金が発生している可能性があります。
2 熟慮期間の伸長
相続の承認又は放棄をすべき期間(熟慮期間)は、「相続人が事故のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」(民法第915条本文)となっていますが、家庭裁判所へ申立てを行うことで熟慮期間は伸長される可能性があります(民法第915条ただし書)。
今回のケースでは、熟慮期間内に相続財産の調査が完了しないことが確実でしたが、あらかじめ熟慮期間の伸長申立てを行ったことで相続財産調査のための時間を作出することができました。
※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例となります。